2019年11月のツウィッカウ工場。工場内は静かで、EVの生産台数は非常に少なかった。車両運搬機械が空のまま動いていた
2019年11月のツウィッカウ工場。工場内は静かで、EVの生産台数は非常に少なかった。車両運搬機械が空のまま動いていた

 ドイツ・フォルクスワーゲン(VW)のヘルベルト・ディース最高経営責任者(CEO)が9月に退任する。ディース氏は、同社の電気自動車(EV)シフトを強烈に主導してきた。それを具現化してきたのが、EV専用モデルのID.3やID.4などを生産するEV専用工場、東ドイツのツウィッカウ工場だ。

 同工場はベルリンの壁が崩壊した翌年の1990年にエンジン車の生産が始まり、旗艦車種のゴルフなどを生産していた。VWは自動車産業の転換を始める場所としてツウィッカウを選び、2019年から同工場をEV専用に切り替える取り組みを始めた。その11月に当時のメルケル独首相が訪れ、開所式を開いたのは、ドイツが官民一体でEVシフトを進めており、ツウィッカウ工場はその象徴だったからだ。

 しかし、19年に同工場内を回るとEVは非常に少なく、同社の未来に不安を抱かざるを得なかった。記者団による工場ツアーがあったが、見たのはゴルフなどのエンジン車がほとんど。EVを見つけると、記者たちは競うように写真を撮影した。その後、新型コロナウイルスの感染拡大やウクライナ戦争など社会情勢はめまぐるしく変わった。その間にツウィッカウ工場は、どのように変化したのか。動画と写真を使って今の様子をお伝えする。

2022年春のツウィッカウ工場のゲート付近。左手には鉄道で出荷するEVが見える(写真:Mari Kusakari)
2022年春のツウィッカウ工場のゲート付近。左手には鉄道で出荷するEVが見える(写真:Mari Kusakari)

 開所式から2年半ほど経過した今春にツウィッカウ工場を訪れると、様子は一変していた。

 以前は静かだったEV生産ラインに、大量のEVが流れていた。多くの従業員がID.3やID.4などのEVを忙しそうに生産していた。生産が忙しいためか、ランチタイムには従業員たちがラインのすぐ横の机で昼ご飯を食べていた。同工場は年間30万台以上を生産する能力がある。停止期間があっため今年はその水準まで生産するのは難しそうだが、生産台数は回復しつつある。

 実際、VWのEV販売は堅調だ。2022年1〜6月期のEV出荷台数は前年同期比27%増の21万7000台だった。ツウィッカウ以外の工場も稼働し、生産能力の増強を図っているが需要に生産が追いつかず、欧州では納車が非常に遅れている。

 生産増のネックになっているのが、サプライチェーンの混乱だ。同工場はウクライナ戦争の影響を受け、ウクライナにあるワイヤハーネス(組み電線)工場の生産が止まり、その影響で3月から生産が止まっていた。

ウクライナ戦争の影響により調達が滞り、生産停止の原因となった高電圧用ワイヤハーネス。その後調達を強化し、生産再開にこぎつけた(写真:Mari Kusakari)
ウクライナ戦争の影響により調達が滞り、生産停止の原因となった高電圧用ワイヤハーネス。その後調達を強化し、生産再開にこぎつけた(写真:Mari Kusakari)

 しかし、ウクライナ工場の生産再開と代替工場からの調達にメドがつき、4月から徐々に生産を再開し、6月からは3交代制と通常の生産体制に戻った。工場を案内してくれた従業員が、うれしそうに「これだよ」と高電圧用のワイヤハーネスの在庫を見せてくれた。

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