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 英国には幅広く中国マネーが浸透している。例えば、海外から英国に飛行機で到着し、目的地に向かうまでをイメージすると分かりやすい。そこでは、好むと好まざるとにかかわらず、中国マネーと無関係ではいられない。

 英国のハブ空港であるヒースロー空港には、中国政府系ファンド中国投資有限責任公司(CIC)が10%出資している。空港から利用するロンドン名物の黒塗りタクシー「ブラックキャブ」の製造会社の親会社は、中国民営自動車最大手の浙江吉利控股集団だ。移動の途中で携帯電話を使えば、華為技術(ファーウェイ)の通信機器を利用している可能性が高い。上下水道を管理するテムズウォーターには、約9%をCICが出資する。

 英国は特に、2008年のリーマン・ショック以降、中国と経済的な結びつきを強め、キャメロン政権時代には、英中関係は「黄金時代」にあると称え合った。メイ首相は安全保障の観点から中国との距離を取ろうとしたが、英国の欧州連合(EU)離脱で経済減速が懸念され、「英中の黄金時代をさらに深化させる」と述べ、再び中国に近づいた。そのスタンスは「ご都合主義」と批判されても仕方がない。

 だが、米中対立の中で英国は立場を明確にせざるを得ず、この連載の1回目で触れたファーウェイの完全排除は黄金時代の終結を明らかにした。英国は中国とどのように向き合い、経済を立て直していくのか。ファーウェイ排除の影響は、他の業界にも及びつつある。

中国との距離感:目次(予定)
第1回:英国、ファーウェイ完全排除で負う代償
第2回:英国の「ご都合主義」に牙をむく中国マネー
第3回:英弁護士が語る香港人の英国移住のリアル
第4回:在英専門家が語る「対中戦略」の要諦
第5回:対中戦略の修正を迫られるドイツ
第6回:コロナで深まったイタリアの苦悩

英金融大手HSBCホールディングスは、利益の過半を香港での事業を含む中国事業が占めている(写真:ユニフォトプレス)

 英国に対する中国の「口撃」が強まっている。

 7月28日、中国政府系のウェブサイト「中国網」は、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟・副会長兼最高財務責任者(CFO)の逮捕について、英金融大手HSBCホールディングスが「悪意を持って関与した」と批判した。孟氏は米国で銀行詐欺などの罪に問われ、カナダで逮捕されている。

 HSBCは25日、「米司法省がファーウェイを捜査すると決定したことに関与していない」と反論のコメントを発表。これに対しても中国網は「自己防衛は無意味だ」と切り捨てた。同社にとって中国事業は生命線でもある。1865年に発足した香港上海銀行を起源とする同社は中国で強い事業基盤を持ち、利益の半分以上を香港での事業を含む中国事業が占めている。

 そのため、同社は香港国家安全維持法への支持を表明するなどと中国政府に配慮しており、英政府がファーウェイを排除した場合の影響を懸念していた。その懸念が現実になりつつあり、英国とアジアを結ぶという同社の経営基盤が揺さぶられている。

中国からの直接投資は欧州最大

 英国では、社会経済の中枢まで多様な分野で中国マネーが浸透している。2008年のリーマン・ショック以降、経済成長のけん引役として積極的に中国マネーを受け入れてきた。

 経済的な結びつきは顕著にデータに現れている。独シンクタンク、メルカトル中国研究センターの調査によると、中国から英国への直接投資は2000年〜19年の20年間で500億ユーロ(約6兆2000億円)に上り、欧州諸国で最大の投資を受けている。

 英国の国立統計局によると、19年の英国から中国への輸出額は307億ポンド(約4兆2000億円)、中国から英国への輸入額は490億ポンド(約6兆7000億円)と、いずれも過去最高を記録している。18年の中国への輸出額が英国の総輸出額に占める割合は4.4%で、国別の輸出額では第6位。中国からの輸入額が英国の総輸入額に占める割合は6.8%で、国別で第4位となっている。欧州以外では米国に次ぐ貿易相手国となっている。

 輸出入全体の10%以下という数字は、依存度を示す数字としては、見方が分かれるだろうう。しかし、特筆すべきはその増え方と内容だ。投資額が1999年以降、増加し続けている上、投資が国の基幹インフラに集中している点だ。その象徴的な事例が、通信と原子力発電である。