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 米国と中国の対立がエスカレートしている。貿易摩擦の泥沼化に加え、在外公館を互いに閉鎖し合い、非難の応酬が止まらない。

 世界の国々は今、その両国といかに関わるかが、重要な命題となっている。戦後、超大国として君臨し続けた米国に対しては、基本的なスタンスが定まっている国が多い。

 一方で難しいのが、台頭する中国との付き合い方だ。低成長に苦しむ国々にとって、中国の投資や市場は非常に魅力的だ。特に欧州各国はこの10年ほど、中国と経済的な結び付きを強めてきた。

 ただ、新型コロナウイルスの流行を境に、状況が変わりつつある。いち早く経済再開に動く中国が世界で影響力を強めており、香港国家安全維持法を施行し香港への統治を強化するなど、各地で強権主義が露わになっている。

 こうした背景から、欧州各国で対中戦略を見直す動きが広がっており、連載「中国との距離感」を企画した。連載の前半は英国の対中戦略の変化を取り上げる。英国はコロナ危機後に中国の通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)と香港を巡って、重要な決断を下した。中国との距離感に戸惑う欧州の苦悩を追う。

中国との距離感:目次(予定)
第1回:英国、ファーウェイ完全排除で負う代償
第2回:支援か支配か?英経済に浸透する中国マネー
第3回:英弁護士が語る香港人の英国移住のリアル
第4回:在英専門家が語る「対中戦略」の要諦
第5回:対中戦略の修正を迫られるドイツ
第6回:コロナで深まったイタリアの苦悩

 ついに英政府が長年の蜜月関係に終止符を打った。

 英政府は7月14日、次世代通信規格「5G」から中国の通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)を2027年までに排除することを正式に決めた。2021年からファーウェイ機器の新規購入を禁止する。

 米政府は英政府にファーウェイ排除を執拗に要請してきたため、マイク・ポンペオ米国務長官は「英国は信用の置けないハイリスクなメーカーを禁止することで、国家安全保障のために立ち上がる世界中の国々の仲間入りを果たした」と称賛した。

英政府はファーウェイを重宝してきたが、ついに決別へ(写真:ロイター/アフロ)

 今回の決断は、英政府にとって重い決断だ。英国はこれまで通信網にファーウェイ機器を積極的に導入し、蜜月関係を築いてきた。ファーウェイと別れられない英国で書いたように、既に通信網に深く入り込んでいる上に、コストパフォーマンスも良いため、「世界最高の同盟関係」(トランプ米大統領)で結ばれている米国から「狂気の沙汰」と言われても、ファーウェイを排除することはなかった。

 実際、英政府は1月に中核システムでは同社製品の使用を認めない一方、基地局(アンテナ)など周辺機器の35%に限って部分的に使用を認めるという玉虫色の決断を下していた。

 だが、この半年で風向きが大きく変わった。英デジタル・文化相のオリバー・ダウデン氏はファーウェイ排除について、「5月の米国の追加制裁が決定的だった。ファーウェイの供給網が不確実になり、セキュリティーの安全性を保つことが難しくなった」と説明した。

 英国は新型コロナウイルスの流行で4万5000人以上が死亡しており、その発生源である中国の情報開示に対する批判も背景にはありそうだ。英トニー・ブレア・グローバル・チェンジ研究所が6月にまとめた世論調査によると、コロナ流行を経て中国政府への印象が悪化したとの回答は英国で60%に上り、米国(54%)を上回った。

 この決断は、英中関係の転換点となり得る。ファーウェイは中国のグローバル展開を代表する企業である。13年にはオズボーン財務相が中国のファーウェイ本社を訪問し、英中の蜜月関係を象徴する企業だった。中国の劉暁明・駐英大使は、ファーウェイ排除に強く反発している。「英国が外国企業に開かれた公平なビジネス環境を提供できるか疑問だ」と批判した。

 ファーウェイにとっても英国は欧州市場を開拓するに当たって極めて重要な市場だ。筆者も同社が英国市場で存在感を誇示するシーンに何度か接した。18年10月に同社は「Mate20」というスマホの旗艦機種を発売したが、世界初の発表の場に選んだのはロンドンだった。発表会は1000人以上の聴衆を招き、ミュージシャンのコンサートもあった。20年2月にはロンドン市内の高級ホテルの会場を貸し切り、取引先やメディアに5G技術をアピールしていた。いずれも資金を惜しまない豪華なイベントだった。

 英国におけるファーウェイの存在感の大きさは様々なデータに表れている。19年7月の政府の報告書によると、ファーウェイは英国の現行の4G向け通信機器と光ファイバー通信で最大手であり、それぞれ35%と45%のシェアを占めていた。欧州が基盤のノキア(フィンランド)とエリクソン(スウェーデン)は、シェア争いでファーウェイの後じんを拝する。