
ドイツのフォルクスワーゲン(VW)という欧州最大規模の企業において、希代の改革者がその役職を追われることになった。
ドイツの各種報道によると、7月21日昼ごろ、VWの監査役会のハンス・ディーター・ペッチュ氏が、ヘルベルト・ディース最高経営責任者(CEO)に面会を求め、事実上の「解任」を告げた。翌22日の午後4時半、監査役会メンバーが招集され、9月にCEOを交代することを決定した。
監査役会はVW傘下の高級車ブランド、ポルシェCEOのオリバー・ブルーメ氏を、VWの次期CEOに任命。同時に、日経ビジネスのインタビューにも登場したアルノ・アントリッツ最高財務責任者(CFO)(参照:VWのCFOに聞く EVとエンジン車、利益率はいつ同じになる?)が、最高執行責任者(COO)を兼ねる人事も発表した。
ディース氏はこの決定に備えていたかのように、監査役会が開催されていた頃に交流サイト(SNS)のリンクトインにメッセージを掲載する。「VWは2021年上期に多くのことを達成した」と述べ、多くの実績を羅列した。VWからCEO交代が正式に発表されたのは、ディース氏がリンクトインを更新した直後だった。
2週間前に電池工場の開所式でショルツ独首相をアテンド
ディース氏は直近までVWの顔としての活動を続けていた。特にEVシフトを熱心に進め、筆者も現場でその姿を直前まで目撃していた。
7月7日、ドイツ北部のVWのザルツギッター工場。同社本社があるウォルフスブルクから南西約50キロにある同工場に多くの関係者が集まり、巨大電池工場の開所式を催した。

ドイツが官民一体でEVシフトを進めることを印象付けるためか、この式典にはショルツ独首相も参加した。そのショルツ首相に寄り添い、工場の建設予定地や電池ラボなどを案内したのが、ディース氏だった。もちろん、ショルツ首相の後に講演したのもディース氏だった。
ディース氏はVWの生え抜きではない。15年7月に独BMW取締役からVWグループの取締役として迎えられた。その直後に同社はディーゼル車の排ガス試験中だけ有害物質の排出を抑えるソフトウエアを搭載していたことが発覚し、社会的な信用が失墜する。ディース氏はVWの信頼回復と経営改革の中で頭角を現し、18年4月にCEOに抜てきされた。
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