身の回りのモノを約6000円で売って生活費を捻出

 突然、バイクの販売店は休業し、ヴィアーナさんは自宅待機に。SNS(交流サイト)などを使って顧客にセールスを試みたものの、新型コロナの感染者と死者が急増する最中で、バイクの購入にはなかなかつながらない。

 社員になることはほぼ確実だったが、最初の1カ月間は試用期間という名目だったことが災いし、雇用主から4月上旬以降に契約を更新しない旨を通知される。この時ヴィアーナさんはあっさりと引き下がった。「ロックダウンが解除され、職場復帰できる可能性が出てきたときのために経営者との関係を壊したくなった。もちろん、復帰できない可能性もあるから、かなり落ち込んだ」と振り返る。

 ヴィアーナさんは1人暮らしだが、別れた妻と子供のために養育費も送らなければならない。ロックダウン期間中の家賃支払いは先送りになったものの、生活にもお金がかかる。病院の清掃員など新しい職にも応募したが、失業者が続出する中では非常に難しく、採用されなかった。ロックダウン期間中は、あらゆる方法でお金を稼ごうと試みた。

 1つは得意の技術を生かすこと。知り合いなどのバイクを整備し、その費用をもらった。もう1つは、フリーマーケットの活用。スペインで著名なフリマアプリ「ウォラポップ」を使い、バイクのヘルメット、机、スピーカーなど身の回りのモノを売った。それぞれ50ユーロ(約6000円)ほどだったが、「売れるものは何でも売った」(ヴィアーナさん)。

 貯金も切り崩しながら生活し、5月中旬から段階的に規制が解除され、今は徐々に日常が戻りつつある。しかし、ヴィアーナさんがバイク販売の仕事に復帰できるメドは立っていない。「今はどんな仕事でもいいので働きたい」との願いは切実だ。ヴィアーナさんはこう言う。「私の周囲には移民が多いが、こうしたロックダウンや景気後退で最も被害を受けるのは経済的に弱い人たちだ。今後はさらに雇用環境が悪化することを心配している」

スペイン在住日本人も収入ゼロに

 スペイン・バルセロナ在住の日本人もコロナショックで生活が一変した。戸城紀子さん(40代女性)は、これまでバルセロナでインストラクターとしてピラティススタジオを経営し、生計を立てていた。新型コロナの流行で人が集まる教室を開けず、戸城さんは突如として失業状態に陥り、「収入ゼロで途方に暮れた」と振り返る。

戸城紀子さんはインストラクターとしてピラティススタジオなどを経営してきたが、ロックダウン期間中は教室を開けなかった
戸城紀子さんはインストラクターとしてピラティススタジオなどを経営してきたが、ロックダウン期間中は教室を開けなかった

 戸城さんはバルセロナの観光地に近い地区に住んでおり、年中にぎわっているが、突然街から人が消え、ゴーストタウンのようになった。戸城さんは9歳の長男と7歳の長女を抱えるシングルマザーでもある。スペインのロックダウンでは子供の外出が禁止され家にこもっていたため、子供たちの心身の健康状態も気がかりだった。

 夏は休暇を取る人が多く、ピラティスの受講者は減るという。その前の重要な3~5月に授業を開催できなかったのは痛手だった。ロックダウン期間中は貯金を切り崩して生活をしていたという。住宅の光熱費を免除する制度もあったが、戸城さんには適用されなかった。

 ただ、気持ちのアップダウンがありながらも、徐々に新しい仕事や生活のスタイルを確立していく。以前はリアルでのクラスが中心だったが、ユーチューブでNOBI by NORIKOというチャンネルを作り、ピラティス教室の発信に力を入れ始めた。「これまで動画制作の経験は少なく不安だったが、作り出したらハマって面白い」と笑顔で話す。

 それと同時にビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」を使ったオンライン教室を開催。戸城さんはスペイン語と英語、ドイツ語、イタリア語と多様な言語を自在に操るため、世界各地の顧客を開拓している。今はリアルの教室に加えて、オンライン教室の活用で稼ぐ方法など将来を見越した収入の基盤づくりに力を入れている。

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