
ダークスーツと黒いネクタイに身を包んだ米テスラのイーロン・マスクCEOは、7年前に日経ビジネス(2014年9月29日号)のインタビューでこう語った。「私は自動車大手と電気自動車(EV)で激しく競争することを心から望んでいます。なぜなら、それはEVの販売台数が増え、技術がより進化することを意味するからです」
14年のテスラの年間販売台数は3万5000台ほど。目の前で話を聞いた筆者はマスクCEOが語るような未来を具体的に想像できなかったが、彼の表情は真剣そのものだった。
そのマスクCEOが切望した未来が、欧州で現実になりつつある。同社が独フォルクスワーゲン(VW)とEV販売で激しいつばぜり合いを演じている。EV販売が急増する欧州でのシェア争いは、今後の世界市場におけるEV競争の前哨戦と位置付けられる。
新型コロナウイルスの感染拡大が起きる前の19年に、ブランド別のEV販売シェアで首位だったのは仏ルノーだった(参照:欧州EV首位が揺らぐ仏ルノー、強まる日産依存)。だが、20年に欧州でパンデミックが起きると店舗での販売ができなくなり、オンライン販売が主体のテスラが一気にシェアを伸ばした。
ただ、欧州の巨人は黙っていなかった。20年夏ごろからVWが旗艦EV「ID.3」の販売を始め、各国政府が様々なEV支援策を導入したため、ID.3の販売台数が急増。20年はVWが初めて欧州でEVのトップシェアを獲得した。テスラは年後半の失速で2位にとどまった。
そして21年、当初予想はこうだった。VWが強力な販売ネットワークとマーケティング力を使い、売れ筋のSUV(多目的スポーツ車)で新型EV「ID.4」を発売し、シェアを伸ばす。一方のテスラはシェアを落とすとの予想が大勢を占めた。今年7月に見込んでいたベルリンの新工場の稼働のメドが立っていなかったからだ。
テスラの意外な反転攻勢
VWの予想はおおよそ的中している。EV専門サイトのシュミット・オートモーティブ・リサーチ(SAR)の調査データによると、VWは21年1~4月期の西欧でEVを4万3351台を販売し、独アウディなどを含むVWグループとしては6万6634台を販売している。それぞれの市場シェアは16%と24.5%だ。
一方のテスラは欧州で意外な反転攻勢をかけている。21年1~4月期の販売台数は3万2250台で、好調だった前年同期を上回った。シェアは11.9%でブランド別で2位につけた。車種別ではテスラのモデル3が3万1732台を販売し、首位を獲得。2位のVWのID.3に2倍近い差をつけ、独走している。
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