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 ドイツで期待の新星であったフィンテック企業が急転落した。ドイツの検察当局は23日、オンライン決済サービスのワイヤーカードのマークス・ブラウン前最高経営責任者(CEO)を、不正会計の疑いで逮捕したと発表した。ブラウン氏は同日中に500万ユーロ(約6億円)の保釈金を支払い、保釈された。

 事態が大きく動いたのは18日だ。ワイヤーカードは監査法人からフィリピンの金融機関の信託口座にあるはずの19億ユーロ(約2300億円)の現金が、口座にあることを確認できないと通告を受けたと発表した。ブラウン氏は「大規模な詐欺被害にあった」と説明し、翌日にはCEOを辞任した。

 週明けの22日には「現金が存在していなかった可能性がある」とし、2019年通期と20年1~3月期の決算を取り下げることを発表。23日にはブラウン氏が逮捕される展開となった。ブラウン氏は架空取引などで収益やバランスシートを実態より大きく見せ、株価を操作した疑いが持たれている。

オーストリア出身のマークス・ブラウン氏は、30代前半だった2002年に独ワイヤーカードのCEOに就き、18年間務めた(写真:ロイター/アフロ)

 同社の不正疑惑は、3つの観点で大きな波紋を呼んでいる。1つは、ワイヤーカードが成長期待の大きなフィンテック企業であったことだ。

 同社は1999年に設立。主にオンライン決済のシステムを世界中の金融サービス事業者や小売り事業者に提供するほか、オンライン決済のデータを分析するサービスも提供し、頭角を現してきた。2005年にフランクフルト証券取引所に上場。2018年12月期の売上高は前の期比35%増の20億1620万ユーロ、EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)は同37%増の5億6050万ユーロと開示している。従業員は2018年末時点で全世界に5154人がいた。

 ブラウン氏はオーストリア出身で、2002年にワイヤーカードのCEOに就いた。同社の7%の株式を保有しており、ドイツで裕福な経営者の1人だった。

 今回の不正疑惑が発覚後に株価は8割以上下落。19億ユーロは同社の現金の過半を占めるうえ、決算開示のメドが立たず、金融機関からの資金調達が疑問視されている。同社は19年にソフトバンクグループの幹部陣などが出資するファンドから出資を受け入れたことを発表している。ソフトバンクグループは同ファンドに直接投資していたいため損失は及ばない見込みだが、ワイヤーカードの株主や取引先、顧客などに、様々な影響が波及しそうだ。

 また、最近はフィンテック企業の成長性に疑問符が付き始めている。英フィンテック大手のモンゾは5月の資金調達が前回に比べ割安となった。そうした中でのワイヤーカードの不正会計疑惑は、他のフィンテック企業にも少なからず逆風となりかねない。