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なぜ毎晩一緒に飲みに行く必要があるのか

いくつかの日本企業とも共同で研究をするなど関係が深いと聞きます。日本の在宅勤務の状況をどのようにご覧になっていますか。

 日本では重要な課題が浮き彫りになりました。1つは、東京では小さい部屋に住む人が多いので、在宅勤務が難しいという点です。ある企業トップからは今後もコスト削減のために在宅勤務に移行したいと聞きましたが、そんなに単純ではないようです。リスクをオフィスから都市全体に移すことになるからです。

 従業員は、仕事用のデスクや椅子などを買わなければならないでしょう。もし今後も在宅勤務を続けるのなら、従業員が仕事に必要なものをそろえるために経費を準備しなければなりません。 

 もう1つ重要な課題は、社内の信頼関係のつくり方です。企業を経営する場合、従業員について2種類の考え方があります。1つは、信頼できると思った人を雇うことです。その人たちを常に監視する必要はなく、彼らは自分の判断で仕事を進めていくでしょう。この場合、かなりの自律性が求められ、従業員に任せる形になります。もう1つの考え方は、従業員を信用せず、常に監視するというものです。

 日本企業が直面している根本的な課題は、リモートワークにおける信頼関係の構築です。日本企業の方々と話した際に私は、「なぜ毎晩一緒に飲みに行く必要があるのか」と質問したことがあります。返ってきた答えは、「信頼関係を築くためにお互いのことをよく知る必要がある」というものでした。あまりに多くの時間が必要になりますよね。

 ここで「よりバーチャルな働き方において信頼関係を築くにはどうすればいいのか?」という疑問が出てきます。

 これに関連した課題は、ヒエラルキーです。在宅勤務の良い面の1つは、役職や立場に関係なく全員が、自宅にいるところを見られることです。先週、ある雑誌の企画のため、世界の10人の最高経営責任者(CEO)とオンラインのミーティングで話しましたが、それぞれのCEOが自宅でスーツを着用せずに座っていました。世界で有名なチェーンホテルのCEOは、髪はぐちゃぐちゃのままTシャツ姿で参加していました。

 ここまで極端でなくても、在宅勤務によって普段の上司の姿が見られることはあると思います。そこでは、リーダーはこうあるべきだという概念は完全になくなっています。社内ヒエラルキーに基づく権威は失墜したのです。

 ある通信系大企業のCEOは、「なぜ以前はこんなヒエラルキーを持っていたのか分からない」と正直に言っていました。官僚主義的な要素を取り払い、若手にも昇進を打診したそうです。主導権を握りたければ、自分のスキルを見せるのです。それにより企業はより鋭敏になり、官僚主義は薄れ、生産性が上がります。

 明確な目的を掲げ、高いスキルを持ち、嘘偽りのない人が信頼を得られますよね。日本の経営層は、在宅勤務を機に社内での信頼関係の構築について考えるべきだと思います。