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 英ロンドンにビジネスパーソンのより良い働き方を探求し続ける伝道師がいる。ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授だ。

 同教授は、世界的なベストセラーになった著書『ライフ・シフト』で知られている。寿命が100歳まで伸びることを前提に、スキルの習得を繰り返して長く働くことを提唱し、大きな反響を呼んだ。2017年には日本の安倍晋三政権で発足した「人生100年時代構想会議」のメンバーにも選ばれた。

 だが、今注目すべきは、その前のベストセラーである著書『ワーク・シフト』だ。技術革新でテレワークが普及し、在宅勤務が一般化する状況に加え、そのメリットとデメリットを示した上で対策を提示していた。同著では2025年を想定していたが、新型コロナの流行により前倒しで想定していた世界が実現している。

 そのグラットン教授は、コロナ後の働き方やオフィスのあり方をどのようにみているのか。今回、グラットン教授は在宅勤務中のため自宅からオンラインでのインタビューに応じた。写真は2年前のインタビュー時のものだが、オンラインでもエネルギッシュに働き方の未来について語った。 

リンダ・ グラットン氏
英ロンドン・ビジネススクール教授。人材論、組織論が専門。英ブリティッシュ・エアウェイズのチーフ・サイコロジスト、コンサルタントグループのディレクターを経て現職。経営思想家ランキング「Thinkers50」の常連。主著に『ライフ・シフト』(東洋経済新報社)、『ワーク・シフト』(プレジデント社) 、近著に「The New Long Life」。2017年に日本政府の「人生100年時代構想会議」に招へいされる。65歳。(撮影:永川智子 以下全て)

新型コロナウイルスの流行で世界各国が都市封鎖(ロックダウン)を実施し、世界中の企業で在宅勤務が広がりました。在宅勤務を成功させるポイントをどのように捉えていますか。

リンダ・グラットン教授(以下、グラットン氏):英国がロックダウンに入った段階からオンラインセミナーなどを開催し、そこで視聴者のアンケートを取るなど様々な調査をしたり、経営者たちから話を聞いたりしました。

 在宅勤務を成功させる鍵のまず1つ目は、従業員一人ひとりを理解することです。例えば、自宅で子供の世話をしないといけない従業員は長時間の勤務が難しいですよね。また、それぞれの従業員が受け持つ仕事についても把握すべきです。在宅勤務に適している仕事もあれば、そうでないものもあります。

 2つ目は、仕事のリズムです。在宅勤務をすると、家とオフィスの違いはただ場所が異なるだけではないことに気がつきました。家からオフィスに行くまで気持ちを切り替える儀式のような日課があります。スーツに着替えて電車に乗り、お気に入りのカフェでコーヒーを飲む。こうしたリズムが精神衛生と能力発揮に重要なのです。在宅勤務においてもこうしたリズムは重要です。

 3つ目は、コミュニケーションです。自律的なルーチンワークなら、在宅勤務の方がオフィス勤務より生産性が上がると考えられます。きちんとした学術調査もあります。中国で実施されたコールセンターに関する大規模な調査では、在宅勤務になると生産性が13%上がるという結果でした。主な理由として、オフィスにいるときほど休憩を多く取らなかったことが挙げられています。

 そこで、在宅勤務に多くのコミュニケーションのプロセスを組み込むべきです。私はホット・スポッツ・ムーブメント(HSM)という会社を経営していますが、当初から毎朝9時に集まり、コーヒーを飲みながらその日にやるべきことを話し合う時間を設けました。そして午後4時には、お茶を飲みながらその日に行ったことを話し合います。こうしたことをオンラインでも取り入れた方がいいと思います。