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 英国ではロックダウン(都市封鎖)が段階的に解除されつつあるが、ロンドンのオフィスには従業員がほとんど戻っていない。通勤ラッシュとなればソーシャルディスタンスを確保するのが難しいほか、超高層ビルではエレベーターに乗るのに時間がかかるなど、様々な制約があるためだ。

 マスクの着用や人との接触が少ない動線の確保などの対策が取られ、徐々にオフィスに戻る従業員は増える見込みだが、それでも新型コロナウイルスの流行(パンデミック)前の状況には戻らないだろう。住宅や不動産の需給にも大きな変化が生まれそうだ。

 過密都市である英ロンドンでは住宅選びがどのように変化しているのだろうか。世界屈指の高さを誇るロンドンの不動産賃料にはどのような影響が及ぶのだろうか。まずは、不動産会社のロンドン近郊の支店で最前線の状況を聞いた。

目次(予定)
第1回:「通勤が怖い」。静寂のロンドン
第2回:英金融マン「もう高層ビルには戻れない」
第3回:英不動産会社「ロンドン脱出希望が殺到」
第4回:英グラットン教授「悪習見直しの好機に」

(撮影:永川智子)

 「とにかく早くロンドン市内から脱出したい」――。

 英国の不動産大手ハンプトンインターナショナルで、ロンドン近郊のジェラード・クロスにある支店のアソシエイトディレクターを務めるをアンドリュー・ライリー氏は今、顧客対応に追われている。3月23日に英国がロックダウンに入り、しばらくすると同支店には顧客からひっきりなしに電話がかかってくるようになった。

 問い合わせの8割が、ロンドン市内からの脱出を希望する人たちからだという。ロンドン市内に住むカップルや子持ちの家族が、郊外の庭付きの家に引っ越したいと希望するケースが多い。これまでロンドン市内の住宅は家賃が高いものの、オフィスへの通勤時間の短さや観劇の楽しみやすさなど様々なメリットがあった。ところが、新型コロナの流行によりメリットが大幅に損なわれた。むしろ、郊外に比べて狭い住宅内で時間を過ごすことは苦痛となった。

 在宅勤務の時間が増え、顧客の要望が大きく変わり、庭付きの住宅を求める人が殺到しているという。今後、子供が増えライフスタイルが変わることを踏まえても、ロンドン市内の住宅には庭がなかったり、小さかったりするので増築の余地がないことがネックになっている。ライリー氏は「ビデオで会話するために、近年は時代遅れになっていた書斎を欲しがる人も増えている」とも言う。

 問い合わせだけでなく、実際にロンドン近郊の住宅を購入する人も増えているという。「ロンドン市内に住むカップルや子持ちの家族が、市内から電車で1時間以内の距離で、庭付きで2、3のベットルームがある住宅を購入するケースが多い」と話す。