英国は世界屈指のリモートワーク環境

 5月初旬のロックダウン期間中にもロンドンの様子を撮影した。医療従事者などキーワーカーと呼ばれる人のみ外出が許可されており、公園を除き人出は非常に少なかった。この時に比べると人出は多少回復しているが、それでもロンドン中心部の状況は大きく変わっていない。特に大半の働き手は在宅勤務(リモートワーク)を続け、オフィスに戻っていない。

(撮影:永川智子)

 今後もこうした状況が続くのだろうか、それとも今だけの現象なのか。様々な要因を分析すると、ロンドンでは都心のオフィスに出勤しない働き方がしばらく続くと考えられる。理由はいくかある。

 1つは都市人口の多さだ。ロンドンの人口は約900万人で先進国の中では東京に次ぐ。金融機関など中心部に大企業が集まり、朝夕の通勤ラッシュが激しく、家賃高騰で住環境も良くないなど、東京と同じような課題がある。これを解消すべきだという動きは、新型コロナのパンデミック以前からあった。

 2つ目は、在宅勤務のインターネット整備だ。米タフツ大学フレッチャースクールのバスカル・チャクラボルティ教授らが在宅勤務を円滑に行うためのネットインフラ整備状況を調査。世界42カ国で比較すると、英国は世界屈指の水準にあった。

 評価項目は「主要なオンラインプラットフォームの堅牢(けんろう)性」と「デジタル決済オプションの普及と回復力」「トラフィックの急上昇に対応するインターネットインフラの耐障害性」の3点だ。それによると、英国はシンガポールやオランダに並び、在宅勤務の環境整備では世界最高水準にランクされている。2012年にロンドン五輪が開催されていた時に、混雑緩和のために在宅勤務が奨励され、企業がネットインフラなどを整備したという背景もある。

 3つ目の理由が人々の意識の変化である。これが最も在宅勤務を推進する力になっているかもしれない。ロックダウンで強制的に出勤できなくなり、これまで反対していた人たちも在宅勤務の利点に気が付いた。

 商用不動産コンサルタント会社デボノ・クレサのディレクターであるクリス・ルイス氏は、こう指摘する。「ポスト・コロナのオフィスが、従来の働き方に対する考え方を少しずつ変え始めている。『リモートワークなんて機能しない』と思っていた人たちが、ワークライフバランスや従業員の満足度、スタッフの定着率など、新しいメリットをもたらしてくれることに気付き始めている」

 英通信大手O2と英調査会社ユーガブなどが共同で実施した調査は、従業員の意識の変化を裏付けている。3月から4月にかけて英国の労働者の約2000人を対象としたアンケート調査によると、ロックダウン解除後に柔軟な働き方を期待している人は全体の半数近くに上った。そのうち81%は週1回以上、33%は週3回以上の在宅勤務を希望している。

 英国では1996年の雇用権利法で、労働者が在宅勤務など柔軟な働き方を要求する権利を認めており、雇用者はそれを合理的に考慮する義務があった。これまで雇用者側がそうした要求を拒否するケースもあったが、新型コロナの流行によるロックダウンを契機に、労働者の権利が幅広く認められる環境が整いつつある。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り881文字 / 全文3384文字

【春割/2カ月無料】お申し込みで

人気コラム、特集記事…すべて読み放題

ウェビナー・音声コンテンツを視聴可能

バックナンバー11年分が読み放題

この記事はシリーズ「大西孝弘の「遠くて近き日本と欧州」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。