前回(エマニュエル・トッド氏「第3次世界大戦が始まった」)において、フランスの歴史人口学者であるトッド氏は、ロシアのウクライナ侵攻に対する認識を示した。では、戦争終結への道筋をどのように見いだしているのか。また、日本のウクライナ戦争への対応をどのように評価しているのか。ロングインタビューの後編をお届けする。

エマニュエル・トッド[Emmanuel Todd]氏
エマニュエル・トッド[Emmanuel Todd]氏
1951年フランス生まれ。パリ政治学院卒。英ケンブリッジ大学で博士号を取得。家族構成や出生率、死亡率から世界の潮流を読む。76年の著書で旧ソ連の崩壊を予言した。米国の衰退期入りを指摘した2002年の『帝国以後』は世界的ベストセラーに。その後もアラブの春、トランプ大統領誕生、英国の欧州連合(EU)離脱を言い当てた。6月17日に『第三次世界大戦はもう始まっている』(文春新書)を出版予定(写真:Abaca/アフロ)

トッドさんはロシアのウクライナ侵攻により、「第3次世界大戦が始まった」と指摘しました。その世界規模の戦いを終わらせるために、どのような方策があると考えていますか。

エマニュエル・トッド氏(以下、トッド氏):第1次、第2次世界大戦は何年も続いた戦争でした。なぜかというと、それが相手が死ぬまで続けるという戦争だったからです。つまりそれぞれが完全勝利を目指す戦争でした。

 第1次世界大戦では最終的にドイツ帝国が崩壊し、第2次世界大戦ではドイツが完全に敗北しましたし、日本も核爆弾によって破壊されてしまいました。そして今では米国の保護国のような状態になっており、今の地政学的な状況は2つの世界大戦と関係しています。

 ですから、第3次世界大戦から抜け出す、あるいはそれを拒否するというのは、まず精神的な意味で誰にとっても完全勝利はないと理解することから始めないといけないと思っています。軍事的な対立でも完全な勝利はなく、交渉しなければいけない。第1次、第2次のような勝利というのはあり得ないということを理解することが始まりになります。

 交渉を実現するために最初にすべき努力というのは、敵国が怪物であるというような表象をやめることです。西洋人はロシア人を怪物だと言い、ロシア側も同じように西洋人をそう言いますが、それをやめるというのが最初にすべき努力であり、それは精神的、道徳的、また倫理的な努力なのです。

 そして、この最初の努力がなされたら、今度は敵であるロシアというのをまた人間的な観点から見直し、ロシア側も西洋人を人間としてもう一度見る。そうすると交渉が始まるわけです。具体的なことをそこで話すべきです。ただし、ロシアがこの戦争で苦戦しているため、一度獲得した領土から二度と出ていかないだろうという問題があります。

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