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 英政権に対し、国民の怒りが爆発している。きっかけをつくったのは、ジョンソン首相のチーフアドバイザーで、英首相官邸のドミニク・カミングス上級顧問だ。

 23日、英メディアの報道でカミングス氏が英政府の新型コロナウイルス対策における都市封鎖(ロックダウン)を破ったことが明らかになった。同氏は3月下旬、妻と共に新型コロナに感染した疑いがあり、子供を預けるために親類のいる北東部のダラムまで400キロ以上を自動車で移動。滞在中に「目の具合を確認するため」という理由で、観光地にも立ち寄っていた。

 英政府は3月下旬からのロックダウンで、同居していない家族との面会や、自動車での移動を制限していた。感染や感染疑いの場合は、14日間の自主隔離を繰り返し求めていた。

英首相官邸のドミニク・カミングス上級顧問は政治戦略家で、英国のEU離脱キャンペーンや総選挙などの戦略策定の中心的人物。ジョンソン首相から絶大な信頼を寄せられており、陰の権力者といわれる(写真:ロイター/アフロ)

 英国は新型コロナによる死者数が3万7000人を超え、欧州各国の中で最多の被害が出ており、政府は国民に厳しい外出規制を求めてきた。英メディアは、規制のために親が入院をしている子供に会えない話や、親の臨終に立ち会えなかった話など、ロックダウン期間中の多くの我慢や犠牲について報じている。

 その中で、政権の実力者が封鎖を破ったことは、国民の怒りに火をつけた。野党・労働党のスターマー党首は、「英国民が重ねてきた犠牲に対する侮辱だ」と批判。野党・自由民主党のデイヴィー党首代行が、「彼のエリート意識からくる傲慢さの中での最低の行為だ」と述べるなど、カミングス氏の辞任を求めている。与党・保守党からもカミングス氏を非難する声があり、スコットランド省のダグラス・ロス政務官は「政府の指示通りに行動した圧倒的多数の人々には受け入れられない」と抗議し、政務官を辞任した。

 高まる批判を受け、カミングス氏は25日、英首相官邸で緊急会見を開いた。政治家でないアドバイザーが首相官邸で会見を開くことは極めて異例だ。家族の状況がロックダウンの例外規定に当たることを説明し、「私がしたことを後悔していない」と語った。謝罪や辞任についても改めて拒んだ。

 また同氏は、「多くの人が私に怒っていても驚かない」と激しい抗議が寄せられていることを明かした。ジョンソン首相は一貫してカミングス氏を擁護しており、「あらゆる意味で、彼の行動は責任ある、合法で誠実なものだった」と述べた。

 こうした政権の姿勢が、火に油を注いでいる。英調査会社ユーガブの26日の世論調査ではカミングス氏の行動について71%がルール違反だったと答え、59%が辞任すべきだと回答した。パンデミック中の行動科学について政府に助言してきたセントアンドリュース大学のスティーヴン・ライヒャー教授も政権を批判。「ジョンソン首相は我々のすべての助言を破棄した」と述べている。

 仮に今回のケースが許されるのであれば、始めから明確なガイダンスを出すべきだった。それがあれば、子供のケアに悩む国民を減らせたし、カミング氏も批判されることがなかった。