ウクライナは“事実上”のNATO加盟国である

トッドさんは、ウクライナが既に“事実上”の北大西洋条約機構(NATO)加盟国であると指摘しています。なぜ、そのように考えるのでしょうか。

トッド氏:ウクライナが既に“事実上”のNATO加盟国であるという考え方は、元米空軍軍人で現在シカゴ大学教授の政治学者ジョン・ミアシャイマー氏の問題提起に基づいています。ウクライナ軍は米国と英国により再組織化されていました。

 そして今も米国のシステムを使っていろいろな情報を得ているのがウクライナ軍です。それによってロシア黒海艦隊の旗艦、巡洋艦「モスクワ」を沈めたり、ロシアの将校を殺害したりできます。もしかしたら、米軍そしてNATOへの同化レベルという意味では、ウクライナ軍はNATO加盟国であるフランス軍よりも高いかもしれません。これが現状です。

 このような状況は、ロシアの今の軍事的な状況が非常に困難であることを説明しています。ロシアはウクライナではなくて実は米国の一部を攻撃したと見ることができるからです。

米国相手の戦争ならロシア人たちの我慢が正当化される

 ロシアがもし米国と戦争に突入したと定義すれば、ロシア人たちにとって、いろいろと我慢することや努力することが正当化されていきます。ウクライナのような小国が相手では、これほどまでの努力というのは正当化できないからです。

 米国は同盟国、あるいは保護国である国々を、自国側に付けることに成功しました。フィンランドや日本、韓国もウクライナの側に付いています。欧州はウクライナに武器を提供しているので戦争に関わっています。そして、さまざまな経済制裁によって、ロシア経済を崩壊させることを狙っています。こうした状況から、私は第3次世界大戦が既に始まっていると考えています。

 この戦争には、米国やオセアニア(オーストラリア、ニュージーランド)、欧州、アジアの4つの大陸が関わっています。そして一方、中国がロシアを支える以外の道がないというような中で、敵側もそのロシアと中国という2つの大陸にわたっており、戦争が広範囲に広がっています。そういう意味で世界戦争と位置付けられるのです。

 ただ、これは非常に特殊な世界戦争です。グローバル経済の中での世界戦争だからです。お互いが経済的に非常に依存し、補完的な関係を築いている中での世界大戦なのです。ちなみにこの戦争はどこか悲喜劇的な要素を持っています。それは人々が死に女性たちがレイプされる、凄惨な戦争の悲劇的な側面があります。

 でも同時に、非常に滑稽な側面もあります。ロシアと欧州の経済の補完的関係性、そして中国経済と米国経済、また中国経済と欧州経済の関係性を鑑みると、第2次世界大戦のような総力戦にはなり得ないでしょう。ですから、ロシアが天然ガスを敵国に供給し続ける一方、西欧は敵国に資金を送り続けるというような、おかしなことがあるわけです。

 「第3次世界大戦が始まった」という言い方をしたのは、この戦争が持続する、つまり長期戦になるだろうという意味も含めました。というのも今の時点で、この軍事的対立に明確な出口は見えませんし、ウクライナ政府には現実主義的な態度が見られません。むしろ、ニヒリスト(虚無主義的)な要素が見られます。

 同時に米国の態度を見てみると、交渉で戦争を終わらせることは難しいだろうと思わせるのです。というのも、米国が今の状態に満足しているように感じられます。米国はここで、ロシアを決定的に弱める機会を見いだしたのです。

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