プーチン大統領に狂気より戦略を見た

 ロシアのプーチン大統領の侵攻に、人々が興味を抱いていろいろな意見を言ったり、分析をしたりしていますが、私は以前からロシアの外交官や戦略家の発言にも注視してきました。パリにあるロシア大使館の人たちにもよく会っていました。プーチン氏は狂っているとか、ロシア人たちはひどいとか、プーチン氏はサディストなどと言われている状況を見ると、西洋側が非常に感情的になっているように思います。

 しかし、私は何年も前からロシアの外交官、指導層というのは歴史的な認識レベルが非常に高いと感じてきました。ですからプーチン氏が西洋を脅かす事態において、そこに狂気じみた人物を見たのではなくて、ある意味、戦略的な実践、実行というものを見たのです。

 もちろん私は軍事スペシャリストではありませんが、今のこのロシアのウクライナ侵攻の戦略は、うまくつくられてはいないように思います。私が感じてきていた「全てを予測するロシアの指導層」という非常に戦略的な態度とは、ちょっと違うものが見えてきています。

 ただし、ロシア軍は今の時点でウクライナ南東部に侵略しています。今ここで戦争が終われば将来的にはロシアがある意味、領土拡大に成功したと見られることになると思います。

ロシアのプーチン大統領の精神状態について様々な報道がなされている(写真: 代表撮影/AP/アフロ)
ロシアのプーチン大統領の精神状態について様々な報道がなされている(写真: 代表撮影/AP/アフロ)

ロシアが勝つこともあり得る

戦争の先行きをどのように見ていますか。

トッド氏:私が歴史家として正しかった点が2つあると思います。1つ目は、米国が(ロシアから)挑まれているということです。ウクライナ軍がここまで抵抗できるのは、米軍の一部になっていたからではないでしょうか。米国の情報機関と協力し、機器も使用しています。

 2つ目は、もっと重要な点ですが、ロシアの経済面や社会面の強さがあらわになってきたことです。ロシアはいろいろな国から制裁を受けても、その経済はいまだ崩壊していません。通貨ルーブルは、西洋のほかの通貨に比べても価値を下げていないどころか、価値を上げているくらいです。

 今、戦争は長期戦または消耗戦に入ってきていますが、ここで問われなければならないのは、誰が一番強いのかということです。中国に支えられたロシアなのか、それとも西洋なのか。西洋は今、インフレで非常に苦しんでいます。ですので、ロシアは戦略的なビジョンを持って侵攻を始めており、私自身はロシアが勝つということもあり得るだろうと思っています。もちろん一般的には、そう思われていないというのはよく分かっていますが、西洋はロシアの安定性に対して不安を抱えているように映ります。

次ページ ウクライナは“事実上”のNATO加盟国である