ロシアのウクライナ侵攻が長期戦の様相を呈し、混迷が深まっている。その問題点や解決策を見いだすためには、歴史的な視点を持つことが欠かせない。ソ連崩壊やトランプ大統領誕生を言い当てたフランスの歴史学者であるエマニュエル・トッド氏は今、どのようにウクライナ戦争を見ているのか。ロングインタビューを前編と後編に分けてお届けする。

エマニュエル・トッド[Emmanuel Todd]氏
エマニュエル・トッド[Emmanuel Todd]氏
1951年フランス生まれ。パリ政治学院卒。英ケンブリッジ大学で博士号を取得。家族構成や出生率、死亡率から世界の潮流を読む。76年の著書で旧ソ連の崩壊を予言した。米国の衰退期入りを指摘した2002年の『帝国以後』は世界的ベストセラーに。その後もアラブの春、トランプ大統領誕生、英国の欧州連合(EU)離脱を言い当てた。(写真:AFP/アフロ)

2月24日にロシアがウクライナへの侵攻を始めました。最初にそのニュースを聞いてどのような感想を持ち、どのような感情がわき起こってきましたか。

トッド氏:まず、世界の歴史の転換点だと感じました。そしてロシアという国が、米国に挑戦をしようとしているとも思いました。要するにロシア人たちは、自分たちが米国に挑めるくらい強くなっていると思ったのでしょう。

 私は地政学的な観点から物事を見ています。今もちょうど地政学に関する本を書いているところで、中国についても言及しています。今までも研究の中でロシア勢力の台頭、特に経済成長やロシア社会の安定化を見てきました。ですので、ロシアはようやく今、米国に挑めると思ったのだろうと感じました。目の前で歴史書が書かれているような、そんな気分で非常に驚きに値する経験でした。

 私はロシアと米国の力関係について長らく研究をしてきました。そこでは理論上では、この2つの力関係というのは均等ではなく、違う側面がかなりあります。米国はロシアの2倍の人口を抱えていますが、人口に関するさまざまな基本指標を見ると、ロシアは状況が好転し始めています。

 逆に米国は状況が悪化していることを見いだしました。例えばロシアの乳幼児死亡率は米国以下になっています。ロシアの平均寿命はまだ不十分ですが、高まっています。米国では高い水準にありますが、下がってきているのです。私はこういうデータに基づく、ある意味冷たい分析を通して、この2つの国の関係性を見てきました。

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