英政府は4月末、大規模イベントの安全性を調べる実験として、リバプールで約3000人が密集するダンスパーティーを開催した(写真:Anthony Devlin / Getty Images)

 5月17日、英国の新型コロナウイルス対策が転機を迎えた。人口の大半を占めるイングランドで、飲食店の屋内営業や映画館、博物館、劇場などが再開した。半年近く店内飲食が禁じられた状況だったので、店内で飲食している姿に違和感を持ったほどだ。筆者もパブで飲食をしたが、近くの席では久しぶりに再会した友人同士がハグをしている光景も見られた。

 原則禁止だった海外旅行も解禁された。ポルトガルやイスラエル、オーストラリアなど12の国と地域は、帰国後の自主隔離が免除された。17日には早速ポルトガルに飛び立った旅行客がおり、英BBC記者による飛行機内での中継を見ると、機内は混雑していた。

 経済と社会の正常化に向け、英政府は様々な実験を実施している。4月末にはリバプールで約3000人がマスクなしの密着状況で踊りを楽しむダンスパーティーが開催され、久々の解放感に酔いしれているようだった。参加者は、開始前の24時間以内の検査で陰性であることが求められ、パーティーの5日後にも検査を受けなければならない。英政府はその他にもサッカーの試合でも大勢の観客が集まる実験を続ける予定だ。

英国の新型コロナウイルスの1日当たりの感染者。1月のピークから大幅に減少している

21年の英国経済は「目覚ましい」成長との予想も

 こうした規制緩和の進展により、傷ついた経済の回復が進みつつある。1~3月期の国内総生産(GDP)はロックダウン(都市封鎖)の影響でマイナス成長だったが、規制が緩和された4~6月は大幅なプラス成長になりそうだ。

 英国で実感するのは、消費の爆発力である。これまでも規制が緩和される度に多くの人が街に飛び出し、買い物や飲食を楽しみ、街はごった返したので、今回の規制緩和でも消費の回復は早そうだ。英統計局が5月19日に発表した4月の英国の消費者物価指数(CPI)の上昇率は前年同月に比べ1.5%と、前月の0.7%から急上昇した。

 英イングランド銀行(中央銀行)は強気の見通しを示す。2月時点では2021年の成長率予想を5%としていたが、規制緩和を受けて5月には7.25%に引き上げた。コロナ禍前のGDP水準に戻る時期を、22年から21年10~12月に前倒しした。米ゴールドマン・サックスは4月末、21年の英国の成長率予想を7.8%と上方修正した際に、「目覚ましい成長」と表現した。

 規制緩和が進んでいるのは、新型コロナ感染者が急減しているためだ。1月のピーク時は7日間平均で1日の感染者が6万人を超え、病院の受け入れ能力が限界に近づき、1日当たり1000人以上の死者が出ていた。5月以降は1日当たりの感染者は2000人程度で、ピーク時に比べ30分の1の水準になり、1日当たりの死者は10人前後で推移している。

 なぜ、ここまで感染者と死者が減ったのか。主な理由はワクチン接種の進展であり、英政府の戦略は大成功だったと言える。長く続いたロックダウンも理由の1つだろう。その一方、政策の大失敗も見逃せない。特に20年は規制強化と緩和を繰り返し、緩和の度に多くの感染者と死者を出してしまい、それが今の感染者や死者の減少につながっている面も否定できない。総括の意味を込めて、それぞれの要因を見ていきたい。

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