世界的な電気自動車(EV)シフトにより、エンジン関連部品を手掛けてきた部品メーカーが苦境に立たされている。一方でEVシフトに商機を見いだす企業もある。その代表例が、繊維大手のセーレンだ。

繊維大手のセーレンの業績が好調だ。同社は5月15日、2023年3月期の連結決算を発表し、売上高は前期比21%増の1323億円、営業利益は同18%増の128億円になり、いずれも過去最高を更新した。
さらに中期目標では26年3月期に営業利益を170億円、営業利益率を11%まで高める計画だ。川田達男会長兼最高経営責任者(CEO)は決算説明会で、「新規事業の売上高を伸ばしていきたい」と語った。
これらの成長をけん引するのが、電気自動車(EV)向けの合成皮革だ。セーレンは本革の4倍の耐久性があり、半分の軽さである新素材「クオーレ」を開発。EVは電池搭載で重量が増すため軽量化のニーズが強い。世界のEVメーカーがクオーレにほれ込み、受注が相次いでいるのだ。23年3月期はアジアでEV向け製品の需要が急増し、セーレンの収益を押し上げた。
同社は繊維事業が祖業である。新規事業を開拓する中で、自動車向けのシート材に活路を見いだした。EVメーカーからの評価が高いことから、需要地に工場を建設し、海外売上高の比率を高めている。
今後も合成皮革への追い風は続きそうだ。まず、世界でEV販売が伸び、軽量のシート材の需要が高まる公算が大きい。また、欧州メーカーを中心に動物愛護や環境保護の観点から動物の皮革を回避する「アニマルフリー」の動きが強まっている。スウェーデンの高級車メーカー、ボルボ・カーは21年にEVの内外装に動物の皮革を使わないことを発表している。その代替として、合成皮革の需要が高まっているのだ。
セーレンは、17年に1220万メートルだったクオーレの年間供給能力を、22年には2倍以上の3090万メートルに、24年には3730万メートルまで引き上げる予定だ。この生産増に貢献するのが、同社初の欧州拠点だ。欧州でEVを生産するメーカーからの需要の高まりを受け、ハンガリーへの工場進出を決めた。
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