ファストファッションは巨額家賃が負担に
家賃交渉で特に厳しい立場に追い込まれている業界はどこでしょうか。
河見氏:ファストファッション業界です。既に高い家賃と拡大し過ぎた店舗の家賃支払いが重荷になっていたうえに、ここ数年、ネット販売へ消費者が移行してきたこともあり、店舗開発戦略の変更を余儀なくされていた中、新型コロナによる休業が追い打ちをかけています。
業界大手であるスウェーデンのへネス・アンド・マリウッツ(H&M)や、ZARAを運営するスペインのインディテックスをはじめとするファストファッションブランドは、欧州各地で激しい家賃交渉をしています。家賃の支払いの差し止めや今後の家賃のディスカウント、1カ月ごとの分割払いなどあの手この手で交渉をしているようです。売り上げ連動の家賃を提案しているブランドもあるようです。H&Mはイタリアで7店舗の閉店を決定しました。

欧州各国の都市部のショッピングストリートは、ファストファッションの巨大店舗が軒を連ねていました。新型コロナ後の街並みは大きく変わりそうですね。
河見氏:はい。大きな変化が訪れると思います。まずショッピングストリートといっても様々なので、大きく3つに分けられます。
1つ目は、カジュアルファッションストリートです。ファストファッションやスポーツブランド、デパートが並び、一般的に最も人通りが多く幅広い顧客層がいます。2つ目は、高級ファッションストリート。高級ブランドが多く、顧客層は富裕層でその中でも観光客の富裕層の購買率が8割以上になります。3つ目がアフォーダブル・ハイストリートです。消費者の中でもこだわりの強い人、感度の高い人が集まる傾向があり、外国人観光客より地元民の比率が高くなっています。
その中で、劇的な変化が訪れそうなのがカジュアルファッションストリートです。この10年ほど日本を含む世界では、ファストファッションが席巻してきました。2008年のリーマン・ショックで消費者の財布の紐(ひも)が固くなったことが、成長を後押ししたのではないでしょうか。現状、ファッション業界で運営店舗数が最も多いのは、このカテゴリーです。
ただ、その後ファストファッションは雨後のたけのこのように世界でブランドが増え、市場拡大とともに各社が競うように都市のカジュアルファッションストリートや、郊外のショッピングモールに店舗を展開してきました。
そのため、急速に家賃が上昇し、彼らも血眼になって物件を探してきました。こうしたニーズを受け、大手不動産オーナーは売り場面積が最低でも2000平米以上の店舗を作るために、地下や2階をつなげて増床を続け、店舗サイズの巨大化に拍車がかかりました。5000平米を超える店舗もあります。結果として、店舗の月額家賃は巨額となり、ファストファッションの財務負担が重くなっています。
新型コロナによる営業禁止だけでなく、今後は大規模店舗に大人数がひっきりなしに集まるという店舗の経営が難しくなり、ファストファッションは巨額の家賃支払いを回避するために、ストリートの不採算店舗の見直し、また一部店舗を撤退する可能性があります。ロンドンのオックスフォードやミラノのコルソヴィットリオエマニュエーレ通りが最も空き室と家賃下落の影響を受けるのではないでしょうか。世界のストリートの景色は大きく変わると思います。
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