新型コロナウイルスの感染拡大で、世界各地で重症の患者の呼吸を助ける人工呼吸器の不足が深刻になり、各国が人工呼吸器の調達に力を入れている。トランプ米大統領は、大統領権限で非常時に企業活動を指示できる国防生産法を発令し、ゼネラル・モーターズ(GM)などに人工呼吸器の生産を命令した。

 だが、人工呼吸器の生産は簡単ではない。新製品の場合は認可に時間がかかるほか、既存の製品においても自社工場だけでなく、サプライヤーの工場が都市封鎖(ロックダウン)の対象となり、増産が難しいケースもあるからだ。

 そうした中、人工呼吸器大手のオランダ・フィリップスは5月までに生産能力を倍増し、7~9月期には4倍に増やす計画を発表した。封鎖が続く中でどのように増産していくのか。フィリップスのフランス・ファン・ホーテン最高経営責任者(CEO)が、本誌の単独インタビューに応じた。

 同社はかつて欧州を代表する総合家電メーカーとして知られたが、ホーテン氏がCEOに就任した2011年ごろからM&A(買収・合併)などを駆使しヘルスケア企業に変身した(参照:フィリップスの大変身、改革成功はチーム作りにあり)。今では医療現場で必要とされる様々な機器を手掛け、製品の6割以上が世界シェア1位か2位を誇る。2020年1~3月期決算が予想ほど悪くなかったことと、自社株買いの進捗を発表したため、20日の株価は前週末に比べ一時7.9%上昇。感染拡大の発覚後に急落した株価は持ち直し、1年前より高い水準になっている。

<span class="fontBold">フィリップス フランス・ファン・ホーテン最高経営責任者(CEO)</span><br> 1960年オランダ生まれ。エラスムス・ロッテルダム大学卒業後、86年フィリップス入社。96年、同社消費者向け家電事業グループCEO。2004年NXPセミコンダクターCEO、11年から現職 (写真:永川智子)
フィリップス フランス・ファン・ホーテン最高経営責任者(CEO)
1960年オランダ生まれ。エラスムス・ロッテルダム大学卒業後、86年フィリップス入社。96年、同社消費者向け家電事業グループCEO。2004年NXPセミコンダクターCEO、11年から現職 (写真:永川智子)

新型コロナウイルスの感染拡大を知り、社内ではどのように対応しましたか。

フランス・ファン・ホーテンCEO(以下、ホーテン氏):1月に中国の状況を見て、同月末に緊急対策チームを立ち上げました。重要なのは、従業員の安全確保と、顧客の要望に応えること、ビジネスの継続性を確保すること。この3本柱を我々は「トリプル・デューティー・オブ・ケア」と呼びました。およそ8万人のフィリップス社員がこの3本柱に共感し、困難な状況の中で最大限の努力をしていることを非常に誇らしく思っています。

経営陣で新型コロナ対策について初めて話し合ったのはいつですか。

ホーテン氏:1月の経営会議で議論しました。これはリスクの多い特別な状況で、普通ではないことにすぐに気がつきました。それを受け、1月28日の決算会見で新型コロナのリスクについてアナリストなど皆さんに話しています。

トランプ米大統領をはじめ、世界中から人工呼吸器の注文が殺到していますが、増産は簡単ではないと思います。どのように増産していますか。

ホーテン氏:昨年は1週当たり500台を生産しており、中国の状況を見て、1月には1000台の生産能力に引き上げました。休日なしの24時間体制で生産しており、4月には1週当たり2000台、第3四半期には4000台まで生産能力を高めます。

 それに加えて増産しやすいE30という新機種を開発しました。これは1週当たり1万5000台を生産できる能力があります。非常に多くの注文があるため、人員配置を見直し、他部署からこの生産に人員を振り分けています。サプライヤーに直接電話し、できるだけ早く増産できるように働きかけています。人工呼吸器などの増産を実現するために1億ユーロ(約117億円)の投資を決め、社員は懸命に働いています。

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