ロシアがウクライナに侵攻し、自動車の電気自動車(EV)シフトの行方が注目されている。原油価格の高騰により世界各国でガソリンや軽油の価格が上昇し、これらの燃料を必要としないEVの販売の追い風になるという見方がある。その一方、ロシアが世界シェアの約1割を握るニッケルの価格が急騰しており、原料にニッケルを使うEV用電池の価格が上昇し、EVシフトが減速するという見方もある。

 こうした状況において、EVシフトを進める独フォルクスワーゲン(VW)グループは強気の見通しを示している。3月中旬の決算発表会でVWグループのヘルベルト・ディースCEO(最高経営責任者)は「EV需要は旺盛だ。EVを強化する方針は変わらない」と述べた。VWグループの中でEV技術開発の中核に位置づけられている高級車ブランド「アウディ」はどのように見通しているのか。アウディの技術開発担当の取締役であるオリバー・ホフマン氏に、ウクライナ戦争の影響や技術開発の動向などを聞いた。

アウディのEV。従来より電池電圧が高いモデルを開発し、充電速度を速めている
アウディのEV。従来より電池電圧が高いモデルを開発し、充電速度を速めている

VWグループではEVシフトに当たり、グループ各社の役割を見直しています。改めてアウディの位置づけと、開発状況を教えてください。

オリバー・ホフマン氏(以下、ホフマン氏):アウディの研究開発部には、VWグループ内でも電気モーターと電気駆動系を専門とする先進的なエンジニアたちが集まっています。2023年に、(高級EV向けの)「PPE」プラットフォームを持つ最初のモデルを発売する予定であり、非常に高い効率と出力を備えた完全に新世代の電気モーターを開発しました。現在、「SSP」という未来のEVのプラットフォームも開発しています。我々は電気モーターにおいてトップのエンジニア集団であると自負しています。

 次に、グループ用の統一された電池セルを作りました。アウディが先頭に立ってこの開発を推し進めています。当社は、グループ内ではこの統一された電池セルを採用する最初のブランドとなり、EV開発と駆動系に関しては最先端の位置にいます。

オリバー・ホフマン氏
オリバー・ホフマン氏
1977年、ドイツ・ハノーバー生まれ。2004年、独フォルクスワーゲンの技術開発部門に所属。その後、アウディのV型エンジンの開発に従事する。12年から、アウディ取締役会長のアシスタント。21年3月から技術開発担当の取締役に。

ロシアのウクライナ侵攻は、EVシフトに多くの影響を与えています。EVのコスト上昇により販売が減速するという見方もあります。どのような影響があると考えていますか。

ホフマン氏:自社で定めた二酸化炭素(CO2)の削減目標を達成するために、アウディのような高級車ブランドがとれる唯一の方法はEVに移行することです。これは私たちにとって明らかです。問題は、企業としてだけでなく、顧客のためにどれだけ速く転換できるかということです。顧客には、クルマと特にハイパワー充電用のインフラが自分たちにとって便利であると納得してもらう必要があります。

 この転換は非常に速く進めなければなりません。明確なビジョンを掲げ、エンジン車からEVへのシフトをこの10年で終える予定です。ウクライナでの戦争は、EVシフトを加速させる可能性があります。燃料価格が大幅に上がったからです。価格上昇が一時的なものであることを願っていますが。

ロシアが世界シェアの約1割を握るニッケルについて供給不安が高まり、ニッケルの価格が大幅に上がっています。ニッケルは電池の主力材料の一つであり、電池やEVのコスト上昇が懸念されています。電池コストをどのように減らすのでしょうか。

ホフマン氏:大変良い質問ですね。エネルギー密度だけでなく、コストの点でもニッケルなどの素材を減らすといった形で、電池技術を向上させなければなりません。将来的には異なる電池技術が出てきます。また、リン酸鉄のような量産車に使われる技術も必要になるでしょう。

 我々は、ニッケルなどの素材を減らすために懸命に努力を重ねています。これは将来的に明らかな課題となるからです。ニッケルの価格は上がっており、この問題に対して私たちはグループでしっかりと向き合っています。ニッケルなどの素材を減らすことは、将来の開発目標でもあります。

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