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 日本の新型コロナウイルス対策が新しい局面に入っている。従来は感染ルートを特定し、無症状も含め濃厚接触者の隔離を進めてきたものの、最近は感染ルートが分からない感染者が急増し、対策の見直しが迫られている。7日に安倍晋三首相が非常事態宣言を発令したが、一部の医療機関では受け入れ能力を超え、パンク寸前の病院や、院内感染によって患者の受け入れを停止する病院も出てきた。

 一方、欧州各国ではイタリアやスペインの医療崩壊に警戒を強め、急速に医療体制を整備してきた。現時点で日本に比べ感染者数や死亡者数は圧倒的に多いが、1日当たりの増加数はピークを越えつつある。修羅場を覚悟しシフトチェンジした欧州の医療現場と比較し、日本の医療現場は今、どのような状況にあるのだろうか。日本でイタリアのような医療崩壊は起きるのだろうか。日本と欧州の医療現場を知る澁谷泰介医師に話を聞いた。

澁谷さんは3月にベルギーから一時帰国した後に、日本で新型コロナ患者の診察をしています。どのような経緯なのでしょうか。

澁谷泰介医師(以下、澁谷氏):3月中旬までベルギーのルーベン・カトリック大学で心臓外科医として勤務していました。ルーベン大学はベルギーの新型コロナ対応指定病院なので、欧州を中心に様々な情報が入ってきます。

 3月中旬にベルギーがロックダウンになり、新型コロナ対応から心臓外科の手術も減り、子供たちの学校再開のメドも立たないため、日本に一時帰国しました。

 ルーベン大学に籍があるままなので、日本では神奈川県の中核病院の救急外来など複数の病院で非常勤医師として勤務しています。日々、新型コロナの感染疑いの方からの電話に対応し、感染者の診察も行っています。今は頻繁に「発熱がある、呼吸が苦しい」という患者さんから連絡が入る状況です。現場で様々な問題を感じますので、所属先とは関係なく、日本と欧州の新型コロナ対応の医療現場を知る医師として、個人的な感想や意見を伝えたいと思います。

澁谷泰介(しぶや・たいすけ)医師
神奈川県出身、私立桐朋高校卒業。2012年横浜市立大学医学部医学科卒業。同大学で初期研修の後、横浜市立大学外科治療学教室に入局し、心臓血管外科医として勤務。2019年よりベルギーのルーベン・カトリック大学心臓外科で臨床・研究フェローとして勤務

日本の準備不足に愕然とした

日本の新型コロナ対応を見て、どのような感想を持っていますか。

澁谷氏:まず、準備不足に愕然(がくぜん)としました。ベルギーから帰国する際は、日本の新型コロナ対策は既に成熟していると思っていました。欧州に比べて感染者は少ないですし、各国の事例を見ており、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の新型コロナ患者に対応した経験もあるからです。しかし、実際に医療現場に入ると、様々な問題点があることが分かり、感染を抑制してきた期間を有効に使ってきたのか非常に疑問を持っています。