看護師「病院に行くのが怖い」

 方針を転換したのは、3月中旬になってから。16日に世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が「テスト、テスト、テスト。これは深刻な病気だ」と発言し、検査の重要性を強調。英国内で感染者や死亡者が急増し、過少検査の批判が高まっていたことから、英政府は大量検査にかじを切る。18日には1日当たりの検査能力を2万5000件に引き上げることを発表した。

 だが、初動の遅れを取り戻すのは簡単ではない。検査件数を増やすことに苦戦し、18日に1日当たり約5800件、25日には同6600件にとどまった。英政府は27日には「検査数を劇的に増やす」と宣言したものの、31日には約8200件にとどまり、ゴーブ氏は「検査能力の拡充における重要な課題は、検査に必要な材料が入るか否かだ。世界中の企業に働きかけ、その材料を得ようとしている」と釈明に追われた。

 4月2日にハンコック保健相が「4月末までに1日当たり10万件を検査できる体制を整える」と表明したが、これまでの経緯から実現性が疑問視されている。同じ欧州でもドイツは早くから検査態勢を整え、大量検査を実現してきた。4月7日の記者会見ではメディアから「ドイツから何を学んでいるのか」という厳しい質問が飛んだ。

 検査不足は、医療現場に大きな負荷を与えている。ロンドン北部のバッキンガムシャー州のNHS(国民保健サービス)の病院に勤めるレイチェルさんは、「看護師の同僚が検査を受けられないため、体調が悪くなると政府のガイダンスに従って、7日間か14日間の自主隔離をしなければならない。そのため現場の人材が不足している」と嘆く。

 3月下旬に英政府は、NHS職員のうち検査を受けられている職員が1%未満であることを明かした。王立医師会によると、3月末時点で検査できず、医師本人や家族の感染疑いによって自己隔離の必要があり、英国の医師の4分の1ほどが仕事を休んでいる。英国王立看護大学によると、看護師の5分の1が出勤できない状態だという。 

 検査の遅れは、院内感染のリスクを高めているようだ。レイチェルさんが担当する糖尿病の患者には、コロナ感染の疑いがあってもなかなか検査が受けられないという。また検査を受けるまで時間がかかるため、その間に感染させるリスクがある。しかも患者にマスク着用を強制できないため、非常に感染リスクが高く、「病院に行くのが怖い」と悲壮感が漂う。

 ICUを担当する看護師は英紙ガーディアンにこう語った。「現在14日間の自主隔離中だが、それが終われば仕事に戻る。未だに自分が感染したかは分からない。それでもまた、感染の可能性が高い職場に行き、娘がいる自宅に戻る日々が続く」

 ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のアンソニー・カストロ教授は、同紙で当局の意思決定の遅さを批判した。「英国にはウイルス研究所が44あり、そのすべてで1日当たり400人分の検査をすればドイツの検査能力に近づけるが、パブリック・ヘルス・イングランド(PHE)の対応が遅い。3月中旬にようやくPHE所管以外の研究所における検査を許可した」

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