エジプトのスエズ運河で座礁していた大型コンテナ船「エバーギブン」は29日、離礁に成功した(写真:AFP/アフロ)

 世界から安堵のため息が漏れたようだった。3月29日午後(日本時間の同日夜)、エジプトのスエズ運河庁は座礁により航路を塞いでいた大型コンテナ船「エバーギブン」が離礁したと発表した。当初はスエズ運河の通航止めが長期化する観測があったが、同日夕方から通航が再開した。

 事故は、23日に起きた。日本の正栄汽船(愛媛県今治市)が所有し、台湾のエバーグリーン・マリンが運航するエバーギブンがスエズ運河で座礁した。上空からの写真を見ると、同船が航路を完全に塞いでいたことが分かる。当初はタグボートなどを使ってもほとんど動かなかったため、短期での離礁は困難という見方が広がっていた。

 特に、スエズ運河庁のラビア長官が27日に、離礁のスケジュールについて「特定の時間軸はない」と述べたことから、重苦しい空気が漂っていた。船を軽くするためにコンテナを降ろす作業に取りかかると、離礁まで時間がかかるのは避けられないという見方が強まっていた。こうした状況を受け、日本の海運会社の関係者は、担当の船舶の状況や南アフリカの喜望峰を回るルートのコスト試算に追われていた。

 世界の貿易量の12%が利用するスエズ運河は、国際海運の要衝である。その閉鎖は世界経済に大きな影響を与えることが懸念され、英海運専門紙ロイズリストは、1日当たり約96億ドル(約1兆500億円)相当の貨物が足止めされていると推定していた。原油供給への懸念が強まり、先物価格も上昇していた。スエズ運河庁によると運航再開の時点で待機していたのは422隻。既にアフリカ大陸の最南西端となる喜望峰を回るルートに航路を変えた船舶も多くあった。

 日本の基幹産業である自動車産業にも大きな影響を与える可能性があった。トヨタ自動車はスエズ運河を利用して自動車部品を欧州の各工場に運んでいるため、通航止めが長期化した場合、4月以降に英国やフランス、トルコ、ロシアなどの工場の生産を停止する可能性があった。実際に部品が届かなければ、航空便の利用なども考えられたが、生産の遅延やコスト増が発生しかねなかった。29日の通航再開を受け、トヨタ関係者は胸をなでおろした。

 今回の事故の原因が明らかではないが、人為的なミスの可能性が指摘されている。物流効率を高めるためにコンテナ船の巨大化が加速し、最大規模のコンテナ船の最大積載量は15年前の2倍近くまで拡大している。エバーギブンは全長400メートルで、2万個近いコンテナを積んでいた。冒頭の写真を見れば、その迫力が伝わるだろう。このような事故のリスクは以前に比べて高まっている可能性がある。

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