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「イタリアと同じ状況に近づきつつある」

 英政府が繰り返し引用するのが、イタリアの事例だ。英国の人口は6648万人で、イタリア(6043万人)と規模が近い。そのイタリアで新型コロナによる死者数が世界最多になり、英政府はイタリアの状況を注視している。

 12日には英政府は「イタリアから4週間遅れで感染が進んでいる」との認識を示し、16日には「3週間遅れ」とした。英政府のヴァランス主席科学顧問は、「英国は急激な拡大の一途にあり、イタリアと同じ状況に近づきつつある」と説明している。

 20日には、英政府が発表した声明の中で「わずか2〜3週間で現在のイタリアのような状況になる」と警戒を強めた。21日に英国では新型コロナによる死者数が233人に達し、これはイタリアが同数の死者数に達してからちょうど2週間後となっている。外出禁止を指示するのはギリギリのタイミングだったといえる。

8月までに25万人が死亡との試算も

 英政府は12日の段階では、新型コロナの感染拡大をある程度受け入れ、重症化のリスクが高い人たちを守りながら、医療崩壊を防ぐために感染者が一気に急増するのを防ぐ戦略を取っていた。

 感染をある程度受け入れて、多くの人が免疫をつけて、その人たちによって感染の急拡大を防ぐという「集団免疫」の戦略は、他国がほとんど取っていなかった。ヴァランス政府首席科学顧問は英BBCに以下のように語った。「私たちの目的は、完全に封じ込めることではない。それによって大多数の人が軽症で発症することになるので、ある種の『集団免疫』を作り出す」

 これは、科学的な知見に基づく対策であるとして評価する識者もいた。だが、多くの批判が集まった。英国免疫学会のアーン・アクバル会長は、「コロナウイルスにはまだ分からないことが多く、長期的な免疫が成立するかどうかはまだ不明である」と指摘した。英国各地の数百人の科学者有志は14日、政府に公開書簡を送付。「イタリアやスペインなどと同様に、感染者数は短期間のうちに一気に増大する。現状の政策はNHSへの負荷をより高めるばかりでなく、必要以上に大勢の命を危険にさらす」と批判した。

●英政府の「集団免疫」戦略など初期の新型コロナ対策への批判
初期の英政府の新型コロナ対策に対して、多くの識者が批判していた

 英BBCによると、英インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究チームが、従来の緩い対策では8月までに25万人が死亡するとの試算を政府に示した。こうした専門家の批判や、イタリアなど諸外国の状況をみて、英政府は方針を転換し、「封じ込め策」に舵を切ることになった。