
緊張感のみなぎる記者会見だった。3月19日夜、スイスの金融機関最大手UBSは同2位のクレディ・スイス・グループを買収すると発表した。買収は株式交換で、総額は30億スイスフラン(約4260億円)相当になる。スイスのベルセ大統領は記者会見で、「UBSによるクレディ・スイス買収が市場で失われた信頼を回復するために、最善の解決策だ」と述べた。
これを受け、スイス国立銀行(中央銀行)はクレディとUBSに対して最大で1000億スイスフラン(約14兆3000億円)の流動性支援策を設定する。
市場が開いていないにもかかわらず、この週末は世界の金融市場に緊張が走った。世界の金融監督機関から「グローバルなシステム上重要な銀行」に位置付けられるクレディが経営危機に陥り、その対処によっては金融危機が広がりかねない懸念があったからだ。スイスにとって金融業は基幹産業であるだけに、政府が全面的に救済に関わった。
クレディはもともと経営不安が続いていたが、米シリコンバレーバンク(SVB)破綻の余波で、一気にその不安が膨らんだ。14日、過去の財務報告の内部管理に「重大な弱点があった」と発表。筆頭株主のサウジ・ナショナル・バンクが、追加出資の予定がないことを15日に明らかにした。これらにより信用不安に火がつき、株価は過去最安値を更新した。
16日にスイス中銀から最大500億スイスフラン(約7兆1500億円)を調達することを表明し株価は一時持ち直したが、17日に再び下落。市場の混乱を食い止めるため、20日のアジア市場が開くまでに抜本的な救済策を講じることが求められていた。
投資銀行業務への傾斜で痛手
クレディは1856年に、スイスの企業家であり政治家でもあったアルフレッド・エッシャー氏により設立された。同氏はスイスが欧州の中で経済的や文化的に孤立しないように、アルプスを横断する鉄道網を整備した。その鉄道建設事業の資金調達を目的として設立されたのが、クレディの前身であるスイス信用銀行だ。
クレディは欧州を代表する金融機関として存在感を発揮してきたが、近年は自らそのブランドを毀損してしまっていた。過度な利益の追求やガバナンスにおいてスキャンダルが続いていたのだ。
まず、投資銀行業務への傾斜だ。法人向けに株式や債券の引き受けを手掛けたり、M&A(合併・買収)の仲介や財務戦略などに関する助言をしたりする投資銀行業務で、米国のゴールドマン・サックスなどと競合するようになった。
ところが、21年に米投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメントの経営破綻に関連し、多額の損失を計上。リスクの高い取引をしていた同社が経営破綻する際に、債権回収が遅れたのが主な原因だった。
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