主戦場の中国市場が79%減
特に影響が大きいのが、経済の根幹を成す自動車業界だ。欧州の自動車メーカーは、主力市場の中国と欧州がいずれも新型コロナで痛手を負い、販売台数の急減が避けられそうにない。
中国の2月の新車販売台数は31万台だった。前年同月に比べ79%減で、過去最大の落ち込みとなった。VWグループは19年に中国で420万台を販売しており、市場縮小は経営の根幹に響く。欧州自動車工業会(ACEA)によると、欧州18カ国の2月の新車販売台数は前年同月比6.9%減の96万4364台で、感染が拡大する3月は販売店の閉鎖も多く、さらに落ち込みそうだ。
仏グループPSAは16日から順次、欧州に15カ所ある完成車工場を休止する。同社は独オペルを買収し、欧州での生産拠点が多い。買収先を再建し、収益を高めたことが評価されていたが、今回は拠点数の多さがネックになっている。
欧米フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)は、イタリア全土が10日から移動制限に入ったため、11日から順次国内工場を休止し、その後も欧州の工場を休止している。
トヨタ自動車も17日から順次、エンジン工場を含む欧州の8つの工場を停止している。理由は社員の外出禁止や部品の調達難、需要減など様々であり、3月末の様子を見て、生産再開を決める予定だ。トヨタ関係者は、「リーマン・ショック以上のインパクトを想定し準備に入っている。他社の系列サプライヤーの経営が厳しくなる可能性があり、代替ルートの模索も始めている」と明かす。
メルケル独首相「第2次世界大戦後で最大の試練」
欧州では18日、新型コロナによる死者が3500人を超え、中国のそれを上回った。感染者は7万5000人を超えている。ドイツのメルケル首相は同日、国民向けのテレビ演説を行い、「我が国は第2次世界大戦後で最大の試練に直面している」と述べた。こうした感染拡大と死者増加のインパクトは消費者心理に大きな影響を与えている。
米中ではネット企業が経済成長をけん引するが、欧州ではネット企業より自動車産業など製造業が中心的な役割を担ってきた。新型コロナの感染拡大は人とモノの移動を少なくするため、製造業への打撃が大きく、欧州経済は苦境に立たされつつある。
いずれ需要が回復するとの見方もあるが、新型コロナは収束時期の見通しが難しく、販売低迷の長期化は固定費の重い自動車メーカーの経営を厳しくする。経営危機を回避するために、自動車各社が人員削減に乗り出す可能性があり、失業者が増えることは社会不安にもつながってしまう。巨大な自動車産業に、かつてない試練の時が訪れている。
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