自動車業界の名物経営者がまた一人、第一線を退く。2019年には独ダイムラーのディーター・ツェッチェ氏が13年間努めた社長を退任し、21年2月にスズキを約40年間率いた鈴木修氏が会長を退任することを発表した。
その中で、10年近く経営トップを務めるのが、スウェーデンの高級車大手ボルボ・カーのホーカン・サミュエルソン社長(70歳)だ。12年の社長就任から、車種を絞り込み、新デザインを根づかせるなど様々な改革を実行し、販売台数が急増。新型コロナウイルスの感染拡大前の19年まで6年連続で販売台数が伸び、過去最高の70万台を達成した。社長の任期を22年まで延長することが決まっている。
長期政権だからこそ大胆になれるのだろうか。3月2日、2030年までに新車の全てを電気自動車(EV)にすると同時に、全てのEVをオンライン販売に切り替え、ディーラーが直接販売することがなくなるという。これまでは、25年までに新車販売の半分をEVにするとしていたが、完全EV化の時期を明確にした。
各社はEV化を進めているが、その中でもボルボの目標は突出している。ガソリン車やハイブリッド車(HV)を求める顧客がいる中で、本当にEVに絞って大丈夫なのか。全てオンライン販売にしてディーラーの役割はどうなるのか。サミュエルソン社長が日経ビジネスなどのインタビューに応じた。沸騰・欧州EVシリーズの2回目は、EV専業メーカーの狼煙(のろし)を上げた自動車業界の名物経営者に迫る。

消費者はEVのみの製品ラインアップを受け入れると思いますか。
ホーカン・サミュエルソン社長(以下、サミュエルソン氏): 今すぐとはいかないでしょうが、あと9年あるのでその時までには大丈夫だと思っています。もちろん、このことについては内部でよく話し合いました。
以前、ボルボが6気筒エンジンから4気筒エンジンに移行したとき、顧客を失うのではないかと恐れていたのを覚えています。実際は、4気筒エンジンを採用してからこれ以上ないほどの速度で成長してきました。その後、自動車に速度制限機能を導入したときには、顧客が離れていくという声も出ました。しかしそれ以降、当社は世界の中でも高速な運転で知られるドイツで急激に売り上げを伸ばしました。同じように、EV化でも顧客を失うとは思いません。
また、お客様に車の電動化に慣れていただくための期間を設け、HVも生産します。特に、EV用の充電設備が近くにない人をターゲットとして考えています。ですので、あまり心配はしていません。2030年以降もガソリン車を販売し続け、それを買う人がいると考えることの方がよほど気がかりです。
30年までに全ての新車を100%電動化するのは、自動車業界の中でも特に早い動きです。EVメーカーとならない限り、自動車メーカーは経営が成り立たないと考えているのでしょうか。
サミュエルソン氏:いえ、未来を予測するのは難しいものです。私たちは自動車を電動化することでより良い未来が築けると強く信じていますが、もちろん、他のメーカーは異なる視点を持っていることもあるでしょう。
大規模で多様なラインアップを持つメーカーであれば、迅速に電動化を進めるのは難しいと思います。小規模でそこまで多くの車種を持たないボルボは、その点でアドバンテージがあると思います。ボルボの将来は確実にEVにあります。個人の移動手段自体も将来はほぼ確実に電動化されると思います。ただ、多くの車種を持つ大企業は、転換にもっと長い時間がかかるでしょう。
現在、多くのメーカーがEVを増やそうとしています。米テスラや独フォルクスワーゲン(VW)など、すでに多くのEVを販売している企業とどのように競っていきますか。
サミュエルソン氏:重要なのは集中することです。過去の遺産が重荷となることもあります。そのため、今年の1月1日から、内燃エンジンの開発と生産をボルボから別の企業に移しました。これは吉利汽車の内燃エンジン部門と統合する予定です。このような形で、当社はすでにEVだけの未来に適応しており、EV化を阻むような過去の遺産はもうありません。
これがボルボの大変ユニークな要素であり、事業変化を助けるものだと思います。ただ、電動モーターで動く車の製造は、内燃エンジンで動く車とそこまで異なるものではありません。安全性、エアバッグ、快適性などの要素はEVでも必要ですから。こうしたものは将来に役立つ大変貴重なノウハウとして残っていくことでしょう。
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