欧州で電気自動車(EV)の販売が急増している。欧州自動車工業会(ACEA)によると、2020年における主要18カ国のEV販売台数は前年比およそ2倍の72万8602台だった。21年に入っても好調な販売が続いている。3月15日には独フォルクスワーゲン(VW)が電池の自社生産を大幅に拡大することを発表した。
そこで、このコラム内で欧州のEVを重点的に取り上げるシリーズをスタートしていきたい。欧州で発売されたEVが時間差で日本に投入され、欧州の規制が日本の規制の参考にされるケースが多い。日本の自動車産業の未来を考えるヒントにもなるように、欧州EVの虚実を伝えていく。
インタビューを交えながら各社の戦略を探ると同時に、「EVは温暖化ガス削減に寄与するのか」などといった様々な問題を検証していく。これからインタビューをする会社の幹部や識者に対しては、読者のみなさんからの質問もぶつけてみたいので、質問をコメント欄に書き込んでいただきたい。初回は沸騰する欧州EV産業について、5つの課題を取り上げる。

ドイツのVWが発表の度に、EV関連の導入目標を高めている。15日、これから新設する工場を含め、30年までに欧州で6つの巨大電池工場を建設し、車載電池の生産能力を年240ギガワット時に引き上げると発表した。これまで公表していた能力の5倍に当たる。VWの主力EVの1台当たり搭載電池を基準にすると、単純計算で400万台超のEVに相当する量だ。
今回の発表の注目点は、生産拡大と共にコスト目標を示したことだ。現状より電池コストを最大5割削減し、「電池システムのコストを1キロワット時当たり100ユーロ(約1万3000円)より大幅に安くする」(トーマス・シュマル技術担当取締役)という。これが実現すれば、ガソリン車よりEVのコストが下がる可能性がある。
5日には、VWブランドにおいて30年までに欧州の新車販売に占めるEVの比率を従来の35%から70%に引き上げ、米国と中国で5割以上にすると発表した。同社は今後5年間で460億ユーロ(約6兆円)を電動化に投資するなど、EVに関する投資額や販売目標がどんどん高まっている。
VWの20年のEV販売は前年比3倍の23万台に
VWの強気の背景には、EV販売の急増がある。同社の20年におけるEV販売台数は前年比3倍の約23万台だった。特に欧州勢がEV販売に力を入れており、ACEAによると20年における欧州主要18カ国の新車販売に占めるEVの割合は、前年の2%程度から7%程度に急伸。今年に入ってからもEV販売増の勢いは続いている。
だが、この勢いのままEVが増え、欧州勢が収益を伸ばすためには様々な課題がある。ここでは主に5つの課題を挙げる。

1つ目は米テスラの快走だ。欧州でEVが売れている中でも、テスラの存在は非常に大きい。VWは2020年後半に、巨大な販売ネットワークと広告宣伝費を使い、新型EV「ID.3」を欧州で売り込んだ。それにもかかわらず、ほとんど宣伝していないテスラの「モデル3」とID.3が欧州各国でEVの販売首位を巡りデッドヒートを繰り広げている。
特に高級車市場ではテスラの存在が際立つ。同社の高級車種「モデルS」と「モデルX」が売れている。欧州でもテスラがブランドを確立しており、VW傘下のポルシェやアウディのライバルになっている。購入時の補助金などでEVが売れても、その恩恵の多くがテスラに流れてしまっては欧州勢の立つ瀬がない。
実際、欧州勢はテスラの台頭に強い危機意識を抱いている。テスラはドイツのベルリンでEVと電池の工場建設を進めるなど欧州で販売を伸ばそうとしており、VWのヘルベルト・ディース社長はテスラへの対抗意識を隠さなくなってきている。テスラのモデルYに試乗し、わざわざ「全てではないが、多くの点で参考になる」と発言した。
15日に開催した「パワーデー」は、電池戦略を語るという点において、テスラが昨年開催した「バッテリーデー」に似ているという指摘は多い。通常は同業他社への言及は控えることが多いが、16日の年次記者会見でもディース社長は何度もテスラの名前を口に出した。(本シリーズでは、嫌がられるかもしれないが、テスラ対抗策についても各社に聞く予定だ)
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