欧州連合(EU)の規制が、世界的な電気自動車(EV)シフトの大きな発射台になっている。EUは2020年に「1キロメートル走行当たりの二酸化炭素(CO2)排出量を全社平均で95グラム以下」という規制を自動車メーカーに課した。さらに35年に新車販売できるのは排出ガスゼロ車のみとし、実質的に内燃エンジン車の新車販売を禁止することを決め、EU域内でEVの開発や販売に拍車がかかっている。EUにおける22年のEV販売台数は前年比28%増の112万3778台だった。
世界の自動車メーカーは、固唾をのんでEUの規制動向を注視している。それはEUの規制が世界の規制動向にも影響を及ぼすからだ。中国政府はEV普及に力を入れ、米国もインフレ抑制法を成立させ、米国で生産されたEVであれば1台当たり最大7500ドル(約100万円)の税控除を受けられる。欧米中の3大市場がEVシフトで足並みをそろえている状況だ。
ただ、22年にはウクライナ戦争の影響で電池材料のコストが上がり、EV普及への逆風も吹いている。そうした中で、欧州はEVシフトをどのように進めていくのか。EUの規制当局は排ガス規制の強化や電池のリサイクル規制など様々なメニューを用意しており、自動車の経営に大きな影響を及ぼす。環境担当として欧州の自動車規制も統括する欧州委員会のティメルマンス上級副委員長に詳しく聞いた。
ティメルマンス氏インタビューこれまで
・「ロシア産ガスの輸入ゼロ、今年中にも」 欧州委ナンバー2に聞く
・EUの脱炭素ルールで日本は不利に? 欧州環境政策トップに聞く
EUは2035年に内燃エンジン車の販売禁止という規制を導入します。EU域内において、22年の新車販売にEVが占める比率は12%ですが、自動車各社や消費者は35年までに対応できると思いますか?
ティメルマンス上級副委員長(以下、ティメルマンス氏):はい。この移行の可能性を徹底的に分析しました。多くの自動車メーカーが35年より前に排出ガスフリーになるでしょう。30年より前にその目標を設定しているメーカーもあり、その全てが排出ガスフリーを達成できると思います。
基本的には2つの技術に基づいています。1つはEVで、これが最も普及するでしょう。もう1つは、日本でも人気の高い、燃料電池を使った水素ベースの技術です。(欧州には)日本の自動車メーカーと密接に連携して、最高の技術を開発しているメーカーもありますね。また、日本ではEUよりももう少し長い間、ハイブリッド車(HV)を使い続けることになりそうですよね。
私たちにとっては、35年というターゲットが一般的に良い目標だと受け止められています。そして、(二酸化炭素と水素で作る)eフューエルの利用などについての議論もありましたが、経済的な観点からあまり意味がないことが分かりました。

35年以降、合成燃料を使用する車の新車販売は認めず
35年以降、eフューエルを使う車をどう扱いますか?
ティメルマンス氏:(eフューエルは)おそらく内燃機関を使います。こうした自動車は、欧州で造られることはないでしょう。通常、自動車のライフサイクルは最長で15年程度です。ですから、私たちがEUで排出ガスゼロを達成したい50年までには、完全にクリーンな車両を保有することができるようになるのです。
eフューエルは、自動車やバンにとって非常に非効率的です。(製造過程で)EVよりも多くの電気が必要です。 そして、航空業界で需要が大きくなります。ですから私たちは、ニーズが大きいと思われる航空産業で、eフューエルの可能性を追求したいと考えています。 なぜなら航空機の電動化は、自動車やバンの電動化よりもはるかに複雑だからです。
もう一度聞きます。35年以降にeフューエルを使う車は販売できないのですね。
ティメルマンス氏:排出ガスがなければ可能です。しかし、燃料を燃焼させながら排出ガスが出ない車は見たことがありません。その意味で、排出ガスフリーにできなければ、EUで生産することも、EUで市場に出すこともできないのです。
Powered by リゾーム?