欧州連合(EU)が野心的な環境政策を次々と導入している。世界でいち早く2050年に域内の温暖化ガス排出量を実質ゼロにする目標を掲げ、世界の気候変動対策をリードする。政策決定の中心にいるのが、EUの政府や内閣に当たる欧州委員会のティメルマンス上級副委員長だ。環境・エネルギー政策を統括し、再生可能エネルギーなどを支援する欧州グリーンディールを主導。国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)の会議では、その演説が注目を集める。
EUの環境政策は世界の企業経営に大きな影響を及ぼす。例えば排出枠取引制度は、産業ごとに二酸化炭素(CO2)の排出枠を与え、増減分を市場で売買する仕組みだ。関係する企業は、排出枠の活用で効率良くCO2排出量を削減することが求められる。また、EUは国境炭素調整措置(CBAM、国境炭素税)を導入する。環境規制の緩い国からの輸入品に事実上の関税をかけるという制度だ。
国境炭素税が導入されれば、EUに輸出する際には関税がかかり、コストが上がり、製品の競争力が著しくそがれることになる。日本の産業界にはどのような影響が及ぶのか。ティメルマンス氏に排出枠取引制度の最新状況や、国境炭素税について話を聞いた(インタビューはテーマごとに3回に分けて掲載。最終回は、自動車関連の規制について)
インタビューの前回:「ロシア産ガスの輸入ゼロ、今年中にも」 欧州委ナンバー2に聞く
EUが野心的な脱炭素政策のルールづくりを進めています。日本では、このルールにいち早く対応したEU域内の企業に比べ、日本の産業界が不利になるのではないかという警戒が広がっています。例えば、日本はCBAMでどのような影響を受ける可能性があるのでしょうか。
ティメルマンス上級副委員長(以下、ティメルマンス氏):ロシアのプーチン(大統領)が戦争を始めてから、日本との協力関係がより重要になったと思います。
日本はCO2削減において、欧州と強い連帯感を示しています。日本は自由を愛する共同体の一員です。ですから、お互いの経済を強化し、弱体化させないようにしなければなりません。

CBAMの目的はただ一つ、(国内市場が炭素効率の低い輸入品に脅かされ、国内生産が減少したり、規制の緩い海外に産業拠点が移転したりする)炭素リーケージを回避することです。
ですから私たちが議論するのは、「炭素リーケージを回避できるか」という点に尽きます。それ以外にありません。日本政府の脱炭素政策を考えると、この点については特に問題ないだろうと思います。
CBAMは導入されるでしょう。しかし、炭素リーケージのリスクがない場合、CBAMの徴収レベルは、日本の産業界による支払いにつながる可能性が低いものになるでしょう。
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