ロシアのウクライナ侵攻後、ロシア産の比較的安価なエネルギーに依存してきた欧州経済は苦境に立たされ、ガスや石油などの価格が総じて上昇。これが欧州を苦しめるインフレの主因となっている。それに対して欧州連合(EU)は、石油の輸入削減を比較的早く進めてきた。2022年6月にはロシア産原油の禁輸を発表。代替の輸入先を確保し、夏以降の価格は下落傾向にある。
こうした中で最大の課題になっているのが、天然ガスだ。欧州はロシアとパイプラインでつながり、ロシア産ガスに依存する経済構造となっていた。ロシアからその弱みにつけ込まれる形で供給量を絞られ、欧州各国は代替として高値のガスを調達せざるを得なかった。
欧州はロシアからのガスを武器に使った攻撃にどう対抗するのか。その在り方は今後の欧州経済の行方や、ウクライナ支援のスタンスにも関わってくる。EUの政府や内閣に当たる欧州委員会で、政策決定のキーパーソンであるフランス・ティメルマンス上級副委員長が、日経ビジネスの単独インタビューに応じた(インタビューはテーマごとに3回に分けて掲載予定)。

欧州はロシア産の比較的安価なエネルギーに依存してきました。ウクライナ戦争により欧州のエネルギー・気候政策にどのような影響がありましたか。
ティメルマンス上級副委員長(以下、ティメルマンス氏):インパクトは非常に明確です。エネルギー転換が加速されました。さらに今、加速しています。
国際エネルギー機関(IEA)の最新のデータでは、EUのロシア産ガスに対する依存度は戦争前の40%から10%まで下がっています。また、足元ではプーチン(大統領)は、エネルギー収入を大幅に減らしています。これは非常に重要なことです。
一方、欧州は再生可能エネルギーの生産量を1年で急速に増加させました。計画より多くの石炭など化石燃料を使用せざるを得ませんでしたが、22年のCO2排出量を21年に比べ減らしました。だから、まだ我々は(CO2排出削減において)トップレベルにいるのです。
戦争は、我々に早く(再生可能エネルギーに)移行することを促し、我々は成功していると思います。私たちが(CO2削減の)目標から脱線することはありません。我々はさらに強くなり、早く目標に到達しようとしています。
ティメルマンス氏は22年5月にロシア産エネルギーからの脱却を図る計画「リパワーEU」をまとめ、再エネ導入の加速を促した。石炭など化石燃料の使用量は増えたが、英調査会社エンバーによると、EUでは22年に、風力や太陽光などの再エネ発電量が初めてガス発電量を抜いた。
だが、暖房においては依然として大量のガスが必要になる。22年前半まではロシアからのガスが十分にあり、それが備蓄に回されていた。23年はロシアからのガス輸入が前年に比べて大幅に少なくなる見込みであるため、次の冬には従来より厳しいガス不足に直面するという見方もある。
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