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クリーンエネルギーに年間4兆ドル(約460兆円)の投資が必要だ──。2021年10月、脱炭素に向けて巨額の投資の必要性を訴えた試算が世界中に衝撃を与えた。この試算を発表したのが、クリーンエネルギーのコンサルを手がける機関ではなく、OECD(経済協力開発機構)加盟国などで構成する国際エネルギー機関(IEA)だったことも脱炭素市場を活気づけた。
だが、その後、世界でエネルギー価格が急上昇。特に欧州では指標価格であるオランダTTFが昨年12月中旬、過去最高となる1メガワット時当たり約180ユーロ(約2万3000円)と、1年前の10倍以上で史上最高値を更新した。こうした状況を受け、各国のインフレが加速。ユーロ圏の1月の消費者物価指数(CPI、速報値)は前年同月比で5.1%上昇し、統計上比較できる1997年以降で最大の上昇幅となった。
このインフレの原因を脱炭素に求める見方がある。この数年、油田やガス田開発など化石燃料の上流投資が減少してきたほか、昨夏は欧州で風が弱い時期があり風力による発電量が減少したためだ。欧州では、グリーンとインフレーションを掛け合わせた「グリーンフレーション」という言葉が流布している。
クリーンエネルギーへの大規模投資を呼びかけるIEAは、インフレの原因をどのように分析しているのか。クリーンエネルギーへのスタンスを修正するのか。原子力発電をどのように位置付けているのか。IEAトップであるファティ・ビロル事務局長に聞いた。

1958年、トルコ首都のアンカラ生まれ。ウィーン工科大学でエネルギー経済学の修士号と博士号を取得。6年間、石油輸出国機構(OPEC)に勤務。90年代半ばからIEAに勤務。2015年から事務局長(写真:井田純代)
欧州でガス価格が高騰し、英国の我が家のガス価格も上昇しています。この原因をグリーンエネルギーのシフトに求める意見があります。「グリーンフレーション」をどのように捉えていますか。
ビロル事務局長(以下、ビロル氏): エネルギーのインフレはガス・石油価格の高騰の結果だと考えています。その原因は、クリーンエネルギーや再生可能エネルギー、電気自動車(EV)にはありません。ガス・石油価格の高騰の理由は、需要が大幅に増えたことにあります。
必要とされているのは、次のようなことです。私たちが主にすべきことはエネルギー供給の安定と気候変動問題の解決、そして化石燃料、特にガスや石油、石炭への依存を世界的に減らすことです。しかしエネルギーは必要ですから、クリーンエネルギーに投資をしなければなりません。再エネや原子力発電、EVなどそうしたものすべてです。現時点では、世界のクリーンエネルギーへの投資額は約1兆ドル(115兆円)ですが、安定していて手ごろな価格のエネルギーシステムを確立するにはさらに3兆ドルが必要です。
つまり、現在のクリーンエネルギーへの投資額と、投資すべき額の間には大きなギャップがあるのです。投資が十分でなければ、十分なクリーンエネルギーを生産できず、化石燃料の需要が大幅に高まります。それによって価格は高騰し、インフレに影響を及ぼすのです。問題は、再エネではありません。より安定した、価格変動の少ないエネルギー市場を持ちたいなら、さらなる投資が必要なのです。
世界はエネルギー転換の道に向かっています。この道は花咲く庭園ではなく、でこぼこした粗いものとなります。価格変動が少ない市場を作るため、この転換をよりしっかりとスムーズに進めるためには政府の後押しが必要です。繰り返しますが、ここでの鍵となる課題は、クリーンエネルギー技術への投資を増やすことです。
最低でも数カ月は石油価格の高騰は続く
価格上昇はガスだけではありません。石油の需給が引き締まり、年内に原油価格が1バレル100ドルに到達するという見方が出ています。石油の需給についてはどのように分析していますか。
ビロル氏: まず、コロナ禍からのリバウンドで需要が高まっています。新型コロナウイルスの流行により世界中でロックダウン(都市封鎖)が導入され、多くの活動が停止しました。特にその中心となったのは交通です。
現在、需要のリバウンドが起きています。より多くのクルマが走行し、飛行機での移動も増えました。新型コロナの変異型「オミクロン型」の影響は、以前考えられていたよりも深刻でないようです。そのため、石油の需要は今後も大幅に高まるでしょう。
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