英アストラゼネカの新型コロナウイルスワクチンの接種を視察するジョンソン英首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
英アストラゼネカの新型コロナウイルスワクチンの接種を視察するジョンソン英首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 欧州がワクチン確保で揺れている。発端はメーカーの供給不足だった。英アストラゼネカは欧州連合(EU)に対し、生産トラブルで1~3月期の予定量の40%しか供給できないことを伝えた。その前には米ファイザーもワクチン供給が遅れることを明らかにしていた。

 EU加盟国はワクチン調達を執行機関の欧州委員会に委ねており、ワクチン調達が遅れ接種が進まないことにいら立ちを強めている。その声に押されるように、欧州委員会はEUからのワクチン輸出を規制することを発表。さらに、アストラゼネカには英国産ワクチンをEUに供給するように要求したため、英国で大きな反発が広がっている。

 欧州で感染拡大を抑制できず、英国のコロナ関連死者数は1月26日に10万人を超えた。各国のロックダウン(都市封鎖)などの影響で、ユーロ圏の2020年12月期の実質域内総生産(GDP)は前期比6.8%減で、記録のある1996年以来で最悪の落ち込みとなった。医療現場の負荷軽減とともに、景気回復の手段としてワクチン接種への期待は高まっており、限られた供給量を巡って欧州で仁義なきワクチン争奪戦が始まっている。

 日本の菅義偉首相はワクチン接種について「有効性、安全性を確認した上で2月中旬にスタートしたい」と語っている。規模を拡大していく際に、どのような問題が生じる恐れがあるのか。欧州のワクチン接種の現状と混乱を参考にしていただきたい。

■シリーズ「ワクチン」のラインアップ(予定)
第1回:英国、医療崩壊の懸念でリスク覚悟のスピード接種へ
第2回:EUの弱点が露呈、開発国ドイツで接種遅れにいら立ち
第3回:接種で株価一時7倍、ホットな裏方はかなりコールド
第4回:仁義なき争奪戦の欧州から見た、接種出遅れ日本の懸念

英ロンドンのクリケット場の隣に設けられた臨時のワクチン接種センターには、高齢者たちが接種に訪れている
英ロンドンのクリケット場の隣に設けられた臨時のワクチン接種センターには、高齢者たちが接種に訪れている

 英国が必死のワクチン接種キャンペーンを展開している。ロンドンにあるクリケットの聖地「ローズ・クリケット・グラウンド」の隣に、臨時のワクチン接種センターが設けられている。臨時センターで接種の日程は不定期だが、その日に接種が実施されているかどうかは、遠くからでも見分けがつく。突如として接種の高齢者目当てのタクシーが列をなしているからだ。

 臨時センターに近づくと、多くのスタッフが訪問者を誘導している。英国では現在、70歳以上が接種の対象になっており、杖(つえ)をつきながらゆっくり歩く人からツカツカ歩いて元気そうな人まで、様々な高齢者が訪れている。一見すると健康そうな若い人もセンターにやってくるが、基礎疾患があり感染リスクが高いため接種を受けるのかもしれない。

 80代の夫婦に話を聞くと、2回目の接種を終えたところだという。「特に2回目の接種が痛かった」と話すが、表情は晴れやかだ。

ワクチン接種センターの表示。ここでは不定期で接種が実施されている
ワクチン接種センターの表示。ここでは不定期で接種が実施されている

 英国では1回目の接種を受けた人が、2月3日までに1000万人の大台を超えた。2回目の接種を受けたのは、約50万人という状況だ。英政府は2月中旬までに医療従事者や70歳以上の約1500万人、3月中に50歳以上が接種を受けることを目標としているが、非常に高いハードルになっている。「英国、医療崩壊の懸念でリスク覚悟のスピード接種へ」で書いたように、供給不足など様々な懸念があるためだ。1回目の接種を優先するため、2回目の接種の間隔をメーカーの推奨より空けていることに、メーカーや医療関係者などから多くの批判も起きている。

続きを読む 2/3 EUから英国へのワクチン輸出規制が、寝た子を起こす

この記事はシリーズ「大西孝弘の「遠くて近き日本と欧州」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。