
ウクライナ情勢を巡る緊張が高まっている。ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)への加盟を検討するなか、ロシアはNATOの東方拡大を強く警戒している。
ロシアはウクライナ国境付近に10万人ほどの部隊を展開しているとみられ、米国のバイデン大統領は1月19日、ロシアのプーチン大統領がウクライナへの軍事侵攻に踏み切るという見通しを述べた。その後も両陣営の神経戦が続いている。
米国のブリンケン国務長官とロシアのラブロフ外相は21日、スイスのジュネーブで会談。ロシアが2021年12月に提案した欧州安全保障の合意案について、米国が1月24日の週に回答する意向を示した。両陣営は外交での解決を探っているが、最悪の場合はロシアが14年に続き、ウクライナに侵攻する可能性がある。
欧州の天然ガス価格は1年で約10倍に
ウクライナ情勢は、欧州のエネルギーの安全保障や経済に大きな影響を与える。欧州は、昨年から需要の急増などにより、天然ガス価格の急騰というショックに悩まされている。指標価格であるオランダTTFは昨年12月中旬、過去最高となる1メガワット時当たり約180ユーロ(約2万3000円)を記録し、1年前の約10倍の価格になった。年末年始に価格が急落し、足元では80ユーロ前後で推移しているが、それでも1年前の4倍程度の価格だ。
ガス価格の高騰を受け、多くのガス小売会社が経営危機に陥っている。英国では半数近くの小売会社が経営破綻した。販売単価の上限規制があるほか、固定価格で契約していた小売会社は価格転嫁ができず、経営破綻に追い込まれている。
それでも欧州の小売価格は上昇しており、エネルギーインフレが家計を圧迫している。欧州連合(EU)では12月の消費者物価指数が前年同月比で5%上昇。主な原因は、ガスや石油などのエネルギー価格が26%上昇したことだった。需要の急増や人手不足で様々な製品の価格が上昇しており、その中心を占めるのがエネルギーだ。

1958年、トルコ首都アンカラ生まれ。6年間、石油輸出国機構(OPEC)に勤務。90年代半ばからIEAに勤務。2015年から事務局長(写真:井田純代)
天然ガスショックの大きな要因の1つが、ロシア問題である。欧州は天然ガスの4割以上をロシアからの輸出に頼っており、その輸出量や思惑によって価格が左右されている。ロシアがウクライナに侵攻した場合は、欧米は経済制裁を加えることを示唆している。ロシアがその対抗策として欧州向けの天然ガス輸出量を減らせば、再び価格が急騰するかもしれない。
こうした状況の中、加盟国のうち欧州諸国が大半を占める国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長は、欧州の天然ガス価格高騰について、ロシアへの批判を強めている。1月12日に「ロシアから欧州へのガス供給量の少なさは、ウクライナを巡る地政学的緊張の高まりと重なることに注意すべきだ」と訴えた。
そこで日経ビジネスは20日、IEAのトップであるビロル事務局長にフランス・パリの本部で話を聞いた。
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