
欧州で物価上昇が続いている。英国の2022年12月のインフレ率は前年同月比10.5%と2桁が4カ月連続で続いた。ドイツの同年12月のインフレ率は8.6%だったが、昨年後半は10%超が続いていた。
物価上昇の中身で特に寄与度が大きいのがエネルギー価格だ。ウクライナ戦争前まで欧州は、ロシアから大量のガスを輸入してきた。英国や欧州連合(EU)のガス需要に占めるロシア産の割合は、4割近くを占めていた。ウクライナ戦争以降にロシアから欧州へのエネルギー供給が縮小したため、需給が逼迫しエネルギー価格が上昇している。インフラを担う仕事が人手不足であり、供給制約からインフレが加速している面もある。
英国のガス・電力市場監督局(ofgem)の電気・ガス単価の上限をベースに標準的な使用量でエネルギー代を算出すると2021年夏の一般的な価格では年間1223ポンド(約19万5000円)だったが、22年10~12月にはそれがおよそ3764ポンド(約60万円)になり、1年間で光熱費が約3倍まで上昇。補助スキームを使わない試算では23年1〜3月期に4279ポンド(約68万5000円)と一段と高騰している。
エネルギー価格の高騰が幅広い品目に影響を及ぼしている。工場の運営や輸送に大量のエネルギーを使うためだ。食料品についても、ロシアのウクライナ侵攻前の1月時点の価格と比べるといずれも大きく値上がりしている。英国の約5000品目を調査している食料品価格インデックスによると、23年1月の価格は1年前に比べミルクは27%、バターは24%、卵は19%上昇している。
貧困層を襲うインフレ
この激烈なインフレが生活者を苦しめている。特に貧困層にとっては死活問題だ。ロンドンの街角で生活困窮者の自立を支援するための雑誌「ビッグイシュー」を販売する30代女性のダリアさん(仮名)が取材に応じてくれた。
2児の母であるダリアさんは、ビッグイシューの販売で生活費を稼いでいる。3ポンドや4ポンドで販売し、その半分を出版社に、半分を自身が受け取れる。「実際には現金などの寄付が大きい」と語る。

これまで何度か話してきたが、温和な語り口で笑顔を絶やさない。地域には固定客が多いものの、インフレと景気悪化で以前ほど売り上げが伸びなくなっている。英語も問題なく話せるので他の仕事も探しているが、読み書きができないため、事務職などで働くのが難しく、清掃などの仕事をすることもあるという。
10年ほど前に東欧の国から渡英した。家賃は月200ポンド(約3万2000円)で光熱費などを込みで350ポンド(約5万6000円)。1部屋に子供2人と親戚の総勢4人で暮らし、トイレや浴室だけでなく、冷蔵庫や食器も他の世帯と共同。生活はカツカツだ。
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