英国のオクトパスエナジー本社。ピンク色のタコのキャラクターが目立つ(写真:永川智子)
英国のオクトパスエナジー本社。ピンク色のタコのキャラクターが目立つ(写真:永川智子)

 エネルギー危機に見舞われる欧州。その中でも特に英国でのエネルギー危機が深刻で、電力やガスの価格が急上昇し、新たに市場参入した多くの新電力が経営破綻した。

 英国ではこの1、2年に経営破綻した新電力の数は10社以上にのぼる。調達コストが膨らみ、売れば売るほど赤字が膨らむ逆ざやに陥ったためだ。新電力は電力大手と競争するために比較的安い小売価格を提示していたうえ、自社電力を持たないため調達コストが膨らみやすい構造を抱える。

 日本でも同じような状況で、いくつかの新電力が撤退した。こうしたことから、経営規模の小さな新電力はエネルギー価格上昇への対応に弱みがあり、持続可能性がないという雰囲気が広がりつつある。

 だが、そんなエネルギー危機の最中に経営規模を拡大しつつある新電力が英国にある。2016年創業のオクトパスエナジーだ。ケンブリッジ大学卒業のグレッグ・ジャクソンCEO(最高経営責任者)とスチュアート・ジャクソンCFO(最高財務責任者)が創業した。

2016年にオクトパスエナジーを設立したグレッグ・ジャクソンCEO。前にもIT(情報技術)企業を設立しており、連続起業家だ(写真:永川智子)
2016年にオクトパスエナジーを設立したグレッグ・ジャクソンCEO。前にもIT(情報技術)企業を設立しており、連続起業家だ(写真:永川智子)

 名前のインパクトから謎めいた印象を受けるかもしれないが、競争の激しい英国のエネルギー小売業界で着実に顧客を増やしている。21年4月期の売上高は前年同期62%増の20億ポンド(約3200億円)。英国で約220万世帯に電力・ガスを供給し、電力大手から顧客を奪いつつある。

 12月に経営破綻した新電力バルブエナジーを買収。同社が抱えていた150万世帯の顧客を引き継ぐ手続きが進められており、最終的に認可されれば顧客数はさらに増える見込みだ。東京ガスから出資を受け、21年には日本で共同出資会社を設立した。既に13カ国で事業を展開している。

 インタビューに応じたジャクソンCEOは、「当初はオクトパスという名前には反対だった。タコって長い脚があって、吸盤があって、ぬるぬるしているじゃないですか」と笑う。しかし、企業の象徴となるピンク色のタコのイラストをデザインし、記憶に残る名前を思い切って採用。今では英国で、ピンク色のタコのキャラクターは広く認知されつつある。

次ページ 英国世帯の4割以上にシステム導入