日本も直面する可能性があるワクチン大規模接種の壁
英政府はサッカー場などに臨時スペースを設け、全国およそ1000カ所で接種をしていく方針だ。だが、接種のスピードアップには様々な壁があり、日本でもワクチン接種の規模を拡大する際に同様の壁に直面する可能性がある。
まず、ワクチンの供給量に疑問の声が上がっている。英国ではメーカーの品質認証の後に、規制当局が生産品の安全検査を実施している。これに時間がかかり、供給量が限られているのだ。英BBCによると、この検査工程に20日間ほどかかると報じている。
例えば、アストラゼネカ製ワクチンは20年末の時点で既に400万回分が英政府に供給されていたが、検査工程をパスしたのは21年1月初旬の段階で50万回分にとどまっているという。
また、ワクチン連載の3回目で触れる予定だが、ワクチンを詰める小瓶が不足している。新型コロナワクチンの保管や運搬には特殊な小瓶が必要で、供給できるメーカーやその量が限られている。需要が一気に拡大したため、小瓶の供給が追いついていない。
さらに、ワクチンを打つための医療従事者が不足する懸念が高まっている。英政府は1週間に約200万人に接種する計画を立てている。しかし、短期間にこれだけの接種をする人を確保できるのだろうか。
英国では医師や看護師のほか、薬剤師が普段からインフルエンザワクチンの接種をしており、今回の新型コロナワクチンも多くの薬剤師が接種する方針だ。ただ、それでも人数が足りないため、歯科医師なども接種の候補者として挙がっているが、普段注射を打たない人が接種することに不安の声がある。
しかも、ただ接種すればいいわけではなく、接種する人はワクチンの知識や緊急時の対応も学ぶ必要がある。情報共有や教育に時間をかければ接種可能な人は増えにくく、情報共有をなおざりにすれば緊急時の対応などに不安を残すという難しい側面がある。
接種を急ぐ英国では、ワクチン接種の際の問診票が分かりにくいという問題もある。上の写真の問診票に記載されているように、アレルギー関連の問いには専門用語があり、接種を受ける人が疑問を持った際に、打ち手がその質問に正確に答えられるかどうかの疑問が残る。
世界最速に近いペースで接種が進む英国に対し、欧州連合(EU)加盟国では接種が遅れている。20年12月末からファイザー製ワクチンの接種が始まったが、EUが公平な配布を重視するために、国別の接種は英国から大きく後れをとっている。EUという仕組みが、ワクチン接種においても難しさを露呈している。次回はEUのワクチン接種の進捗について報じる。
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