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 日本ペイントホールディングス(HD)が大勝負に出た。第三者割当増資などで1兆3000億円近い大金を調達、その資金を使ってシンガポールのウットラムグループと合弁で展開するアジア事業をすべて完全子会社化すると8月21日に発表した。株の割当先となるのはそのウットラム。もともと日本ペイントHDの筆頭株主だったウットラムの株式保有比率は、第三者割当増資の結果、39.6%から58.7%に上昇するため、形の上では日本ペイントがウットラムの子会社になる。

 だがこの結果、日本ペイントHDは自己資金をほとんど使うことなく、ウットラムとの合弁だったアジア事業(日本ペイントHDが51%、ウットラムが49%出資)を完全に買収できる。つまり、ウットラムとの合弁事業の買収資金をウットラムから調達したことになる。日本ペイントは好調な合弁事業を完全に取り込むことで、利益を大幅に増やすことができる。一見複雑だが、名より実を取る格好となる今回のディールの本質は何か。日本ペイントHDの田中正明会長兼社長CEO(最高経営責任者)が日経ビジネスの取材に応じた。主な一問一答は以下の通り。

田中正明(たなか・まさあき)氏
1977年東大法卒、三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入社。2012年三菱UFJフィナンシャル・グループ取締役副社長。18年産業革新投資機構社長CEO。19年日本ペイントホールディングス会長。20年社長CEOを兼務。(写真:的野 弘路)

ウットラムの持ち株比率が6割近くになるため、「日本ペイントHDがウットラムに買収される」「日本の大手企業がアジア企業の傘下に入る」という報道もありました。ただ第三者割当増資で得た1兆円以上を使ってウットラムとの合弁事業を完全に買収するのは日本ペイントの側です。言い換えれば、日本ペイントHDがウットラムの事業を買収したという見方もできると思いますが、どのようにとらえるのが正しいのでしょうか。

田中正明CEO:いろいろな報道をされましたよ。ウットラムを率いるゴー・ハップジンさんはシンガポール人ですから、シンガポールの華僑による乗っ取りだとか、あとはアジア企業に買収されたとか、身売りだとか。でも買収されるわけではありません。ウットラムにTOB(株式公開買い付け)を仕掛けられたわけでもなく、我々マネジメントが変わるわけでもないのですから。子会社化という人もいますが、通常子会社化する場合は『最低でも51%の株を保有する』という合意や契約を結ぶものですが、今回はそれもない。つまり今後、我々が新株を発行してウットラムの出資比率が下がっても構わない、というわけです。