ホテルや不動産を手掛けるユニゾホールディングス(HD)の争奪戦がとうとう決着した。旅行大手のエイチ・アイ・エス(HIS)による敵対的TOB(株式公開買い付け)に始まり、複数の米投資ファンドを巻き込んだ争奪戦は、最終的にユニゾHDが提示したEBO(従業員による買収)が成立するという結末に至った。自ら呼んだホワイトナイト(白馬の騎士)を袖にしたり、百戦錬磨の米投資ファンドと渡りあったりと、剛腕を見せつけた小崎哲資社長の功績は何だろうか。

 3100円(HIS)→4000円(米フォートレス・インベストメント・グループ)→5000円(米ブラックストーン・グループ、提案のみ)→4100円(米フォートレス)→5100円(ユニゾEBO)→5600円(ブラックストーン、提案のみ)→5200円(フォートレス)→5700円(ユニゾEBO)→6000円(ブラックストーン、提案のみ)→6000円(ユニゾEBO)

 これはユニゾHD争奪戦で示されたTOB価格の推移だ。こうしてみると、2019年7月に最初に敵対的TOBを仕掛けたHISの価格のほぼ倍となる6000円でゴールした格好になる。だがそもそもHISのTOB価格にもプレミアムがついており、HISのTOB直前のユニゾHDの株価は1990円。そう考えると小崎社長は、株価をわずか半年強の間に3倍以上にした経営者ということになる。

ユニゾHDはホテルや不動産事業を手掛けている
ユニゾHDはホテルや不動産事業を手掛けている

 この間、小崎社長は様々な変わり身でファンドなどと渡り合った。HISの敵対的TOBに対抗するためにホワイトナイト(白馬の騎士)として呼んだのがフォートレス。しかしブラックストーンが1株5000円とより高値のTOBを提案すると、フォートレスに価格引き上げを要求し、応じないと見るやフォートレスをホワイトナイトの座から引きずり下ろした。

 同時に多くの買収希望者がいることもほのめかしたため、株価はそれにあおられるようにブラックストーンの提案した5000円をも上回って推移した。小崎社長は「友好的な合意」をTOB開始の前提としたブラックストーンとの交渉でも首を縦に振らず、最終的に繰り出した奇策は日本ではほぼ前例がないEBO。その後のフォートレスとブラックストーンの価格引き上げにもきっちりと対抗し、最後は6000円で逃げ切った。

「いちゃもんばかり」の声

 小崎社長が様々な買収者にこれだけ長期間に渡って抵抗しなければ、TOB価格がここまで吊り上がらなかったのは紛れもない事実だ。ユニゾHD株主の立場からすれば、昨年7月に2000円を割り込んでいた株価を6000円で売れるまで引き上げた功労者とも言える。

 M&Aの局面では、企業を高く売るのが取締役会の責務とされている米国資本市場的な評価をもってすると、小崎社長を含むユニゾHDの取締役会は最高のパフォーマンスを出したということができるだろう。

 しかもEBOの資金調達のために手を組んだ米ローンスターにTOB資金を返済しなければいけないため、昨年末からユニゾHDは大量の不動産を売却し現金の確保を進めている。既に多くの物件の売却に成功し、2020年3月期に特別利益を計上しているが、新型コロナウイルスに伴う世界的な景況悪化の影響を受ける前に、ある程度の高値でアセットを現金化したとも言える。「今後、不動産価格が下落するのはほぼ確実。先見の明ではないけれども、売った時期は結果オーライと言わざるを得ない」(証券会社幹部)。

 3月上旬には従業員の一部が「EBOは従業員の総意ではない。明らかに小崎社長が主導しており、真のEBOではない」と東京証券取引所などに小崎社長を告発したが、資本の論理からすると「従業員は気の毒だが、ディール全体から見ると影響は小さい」(投資銀行関係者)との見方が多い。EBOを経て非上場化した後に、「従業員や小崎社長らが自分たちでなんとか解決するしかない問題」(同)というわけだ。

 米ファンド関係者からは「裏切りを繰り返した」「いちゃもんばかりで一度も誠意ある交渉をする気がみられなかった」と怨嗟の声も聞こえてくる。今回の争奪戦で関わった人たちからは酷評されているが、株主からは「買収に抵抗し続けた理由はよくわからないが、とりあえず株主としてはよくやってくれたと言うこと」(個人株主)と称えられもする小崎社長。良くも悪くも日本のM&A史に強烈なインパクトを残したのは間違いない。

この記事はシリーズ「M&A深読み裏読み」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。