読売ジャイアンツという人気球団を抱えているのに生かせてない――。東証1部に上場する東京ドームに、物言う株主(アクティビスト)として知られる香港のファンド、オアシス・マネジメントが苦言を呈している。老朽化したドーム球場やホテル、遊園地をてこ入れすれば、収益拡大は可能というのがその主張。大株主から飛んできたボールを東京ドームはどう打ち返すのだろうか。

オアシスは東京ドーム株を9.61%(1月24日時点)持つ大株主。既にオアシスと会社側は何度か面会している。1月決算の東京ドームは4月下旬に定時株主総会を開く予定。会社によると現時点で株主提案は出ていないというが、オアシスが総会でどのような声を上げるかが焦点だ。ちなみにオアシスを率いるセス・フィッシャーCIO(最高投資責任者)は「大の野球好き」(オアシス関係者)として知られる。
オアシスが東京ドームに付けている注文は、おおまかに言えば、人気球団の読売ジャイアンツのホーム球場という利点があるにもかかわらず、東京ドームの価値を存分に引き出せていない、というもの。オアシスは、19年のレギュラーシーズンの観客動員数で総入場者数が300万人を超えたのはセパ12球団のうちジャイアンツと阪神タイガースだけであり、シーズンチケットもジャイアンツは最高額が220万円と他球団より高額だと説明。それだけ魅力的な「コンテンツ」を抱えているのに、東京ドームが2019年1月期まで3期連続で営業利益率が低下していると指摘している。ただ、ドーム球場や遊園地、ホテルに対する設備投資を実施するなどすれば、収益力は高まるとオアシスは主張する。
具体的な収益向上策も挙げた。例えば、球場内で機動的に広告を表示できるデジタルサイネージ(電子看板)を採用すれば、広告収入を増やせるとする。これだけで21年度の利益を14億円押し上げると予想する。
命名権(ネーミングライツ)の活用も促す。他のプロ野球球場では「福岡ペイペイドーム」「ZOZOマリンスタジアム」「MAZDA Zoom-Zoomスタジアム」など多くが命名権で収益を得ている。東京ドームもこうした収入を得るべきだというのがオアシスの主張だ。
東京ドームに隣接する東京ドームホテルや遊園地も設備投資をして魅力度を高めれば、好立地の優位性を引き出せるとオアシスはみる。「熱海ベイリゾート後楽園」と「松戸競輪場」というノンコア資産については売却を含めた全面的な見直しを求めている。
一連の施策を取り入れれば、純利益は71億円上積みされ株価も大幅に上昇するはずと、オアシスは試算する。
今回の「苦言」について、オアシス関係者は「経営権を取るとか、激しいアクティビズムを展開する意図はなく紳士的な提案」とする。一方、東京ドームは「(オアシスの意見を)取り入れられるものは取り入れるし、真摯に受け止める」としている。
今回は経営コンサルティング会社のように振る舞っているオアシスだが、これまでもパナソニックによるパナホーム完全子会社化に反対し、条件を変えさせた実績を持つアクティビストであることには違いない。収益向上というリターンを得られなければ、より踏み込んだ要求を掲げる可能性もゼロではない。ジャイアンツの初代オーナーだった正力松太郎氏は「巨人軍は常に紳士たれ」といったが、オアシスが「紳士」であり続ける保証はない。
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