「タテ割り」の弊害が顕著に

会社を船に例えれば、船自体をつくる方法を考えてきた人と、出来上がった船に乗り込んできた人とは、見える景色が違うというのは当然といえば当然なのかもしれませんね。

渡邉氏:出発点がまるで違います。あと船の進む方向をもともと持っていた人と、後から乗り込んできて船をどこに進めていいか分からない人とは、全く違うと思います。ですから、ワタミの中で新しいことが何一つ生まれていなかったのは、僕にとって非常に残念なことで、またこれを何とかしなければ乗組員を幸せにできないと思いました。

外食事業(上左)の他に、宅食(上中)、介護(上右、15年に売却)、農業(下左)、自然エネルギー(下右)などの事業を抱えるワタミには、相乗効果を生む「全体最適」の戦略を描けるリーダーが必要だったのだが……
外食事業(上左)の他に、宅食(上中)、介護(上右、15年に売却)、農業(下左)、自然エネルギー(下右)などの事業を抱えるワタミには、相乗効果を生む「全体最適」の戦略を描けるリーダーが必要だったのだが……
[画像のクリックで拡大表示]

ただ、外食事業では「和民」に代わる居酒屋の新業態もいくつか生まれました。

渡邉氏:それは看板を掛け替えただけですから。「ミライザカ」や「鳥メロ」というのは、和民を変形させたものなので新しい業態とは言えません。そこで今度、4月に、(飼料や食肉の生産から手掛ける)高品質の和牛を手ごろな価格で提供するファミリー向けの業態をオープンします。他にも、今伸ばしているファストフード業態の「から揚げの天才」。これらは従来のワタミにはなかった文化です。駅前型居酒屋の和民とは違うこの2つの業態を本格的に立ち上げることが、復帰後の僕の仕事でした。

一方で、グループ全体の事業をもう一度まとめる作業が必要だということですが、経営を退かれた後、会社はどういう状況に陥ったのでしょうか。

渡邉氏:一言で言えば、「タテ割り」の弊害が顕著になったということです。ワタミには、農業、自然エネルギー、外食、宅食など様々な事業があり、それが連携することで初めて本来の強みを発揮します。これらの事業はトップを退くまでの29年間で、僕がつくってきたものです。そして、各事業がそれぞれ独立して走っていて、それらを横断的に見て、シナジーを考えるのは僕1人だった。ところがその本人が抜けたものだから、各事業がバラバラに動き始めたんです。人的交流も情報共有もあまりなかったので、例えば、外食事業と宅食事業がそれぞれ手配したトラックがほとんど同じ所に向かって別々に走っていた。

 でも、僕が政治家になる前は、タテ割りの方が僕自身が会社を見やすかったですよね。各部門を分社化していたので、この会社はこう、この会社はこうと、会社単位で管理して指示できたので、僕にとって一番効率が良かった。でも、その結果として全体最適ではない組織をつくってしまった。これはもう僕自身の反省ですが、横の連絡を取り合いながら常に全体最適を考えられるような役員がまだ育っていなかった。だからタテ割りにして、僕が直接指示をした方がやりやすかった。

 それに組織は小さい単位の方が、頑張りや成果も見えやすい。だからタテ割りで、それぞれの会社と役員が自立していけばいいと思っていました。でもこれが大きな間違いでした。1+1が3とか4を生むことを目指したのに、1+1が1になってしまった。結局、農業部門は赤字で足を引っ張っている。エネルギー部門でもソーラー発電事業などを一部手放さねばならなくなってしまった。最高の経営状態でバトンを渡したつもりだったが、肝心のバトンの渡し方が悪かった。だから事業をつくった人間の責任として、相乗効果が生まれるような仕組みにつくり替えていかなきゃいけないと思ったんです。

タテ割りを解消して、全体最適を考えられるリーダーを育てるために、今はどのような取り組みをしているんですか?

渡邉氏:昨年10月に会長に復帰してからすぐに、通常の取締役会とは別に、部門を横断する「経営戦略会議」を立ち上げました。毎週月曜日に各部門を統括する6~7人の役員が集まり、朝8時から昼の1時くらいまでじっくり時間をかけてグループの各事業の現状や課題を共有し、成長戦略を話し合います。この会議が今のワタミの心臓になっています。すべての事業の戦略立案、およびそのPDCAについて、毎回20項目ほどの内容を、1つずつ討議する、非常に中身の濃い会議です。案件ごとにその事業の担当者が順番に来て、戦略の進捗などについて次々に報告します。

 会議に参加する役員は、そうした各事業の動きや課題をお互いに共有し、他部門と連携しながら全体のシナジーを高める方法を一緒に議論します。ITを使って、各部門の情報共有も進めています。例えば外食で1つの販促策を打つ場合などは、食材を作る工場も、素材を供給する農場も、人材育成の担当部署も、もちろん本部も、全員が情報を共有して「同時案件」として扱います。各部門を預かる役員が集まってそれを検討し、そして合意し、前に進む。これを繰り返すことで、グループ全体を見渡す大きな視野で物事を判断できるようになるはずです。

今振り返ると、ワタミの経営幹部に本来必要だったリーダーシップとはどのようなものだったのでしょうか。

渡邉氏:難しいね。結局、その育成をできなかったのが僕ですから。ただ、1つ、付け足しておきたいことは、いろいろな問題点はあるけれども、今の清水(邦晃)社長(兼COO=最高執行責任者=、15年に就任)は非常に良いリーダーだとは思っているんです。ラグビーの日本代表チームに例えれば、彼は主将のリーチ・マイケルで、僕はヘッドコーチのジェイミー・ジョセフだと。私は上から見て指示して、戦略も練り、人も決める。実際に現場で戦って、ここはスクラムでいくのかキックするのか現場で判断するのは彼です。外食事業にとって一番大切な、商品と立地の2つを彼に任せていて、僕はタッチしていません。ボトムアップのリーチ・マイケルを中心とした、いい組織が出来上がっていると思っています。リーダー論で言うならば、まずは現場でみんなをまとめられる人材を育てることまではできた。次は経営戦略を担える人を、これから時間をかけて育てていきたいというのが正直なところです。

次ページ 「同族企業について調べて、考え方が変わった」