(写真:尾関 裕士)

 居酒屋「和民」を人気業態に育てたワタミ創業者の渡邉美樹氏(60)。創業16年で東証1部上場を果たし、2008年3月期には売上高1000億円を突破。その手腕から外食業界のカリスマ経営者として名をはせ、小説『青年社長』のモデルにもなった。

 「100年企業」を目指し経営を後進に託すべく、09年に社長の座をすかいらーく出身の桑原豊氏に譲り、自らは会長兼CEO(最高経営責任者)に。11年には東京都知事選に出馬(落選)するために代表権を返上し、取締役最高顧問に就任した(同年、非常勤の取締役会長に)。13年には取締役も辞し、参議院議員になり国政に進出。ワタミには「1000%戻らない」と公言していた。

 ところが、渡邉氏が経営を離れてからワタミは坂道を転げ落ちるように業績が悪化する。労務問題の影響や外食事業の不振がたたり、15年3月期には上場以来初の営業赤字に転落し、自己資本比率は危険水域の7.3%にまで低下。05年に進出し、有料老人ホームが100カ所を超えるまでに成長した介護事業を売却せざるを得なくなり、その後も減収に長く苦しむことになった。

 これを見かねた渡邉氏は、6年間の議員生活を終え、19年7月にワタミの取締役に戻り、10月には8年ぶりに代表取締役会長に復帰した。グループCEOという新たな肩書も名乗り、自身に権限を集中させ経営の立て直しに奔走。20年3月期は6期ぶりの増収を見込むが、売上高は1000億円に届かず、ピーク時の1631億円(14年3月期)には遠く及ばない。

 グループの未来を託せる後継者はなぜ育たなかったのか――。渡邉氏が自戒を込めて、心中を明かした。

昨年10月、8年ぶりに代表取締役会長に復帰しましたが、政界進出する際には「ワタミの経営には絶対に戻らない」と宣言していました。

渡邉美樹・ワタミ会長(以下、渡邉氏):まずあれだけ強く戻らないと言ったのは、実は対外的というよりも社内に対するメッセージでした。要するにどうしても僕がつくった会社ですし、いろいろなことをすべて私が決めてきたわけですから、社員にしてみれば私が少しでも会社に残ったり、戻ってきたりすることが分かれば、甘えが当然発生します。経営陣に緊張感を持ってもらうために、「二度と戻らない」と公言したわけです。それと同時に、政治から日本を変えていく、日本の未来をつくっていくという決心を固めるために、自分に対して、一種のけん制をしたということでもあります。もっとも政界に入ってみて分かったのは、国会議員は本当にいかに周りと仲良く、群れをつくりながら泳いでいくかが大事な仕事だということです。僕が発言したことは議事録には残っていますが、1つも形にはならなかった。

 それでも国会議員になってから、僕は経営情報を取りに行きもしなかった。取れば甘えてくるはずだからです。でも結果として、工場の設備、店舗の改装、広告宣伝などに対する過剰投資が生まれていた。15年3月期に(上場以来初の)営業赤字に転落してからは、銀行から「渡邉さん、戻ってこなかったら、もう融資しないよ」と言われるところまで追い込まれました。それからは、2週間に1回ぐらい、役員会の相談を受け、大株主の責任として財務や資金繰りの状況を見ていました。でも、やはり中途半端に経営ってできませんから、それ以上踏み込むことは自制していました。

それだけ戻らないと強く決心されたのに、昨年トップに復帰されたのはなぜですか。

渡邉氏:創業者にとって会社は自分の子供だし自分が育てたわけですが、ある段階に来たときには自ら前に進んでいってもらえるようにしたい。ただ、やはり創業者というのは本当に死ぬまで創業者なんだなということは、今回復帰するにあたって、改めて思い知らされました。中途半端に言うと今の経営陣の批判になってしまうので、これは避けたいんですが、「やはり戻らねばならない」と思った理由は2つあります。

 1つは、司令塔だった私が欠けたことで、グループの各事業がバラバラになってしまったことです。それから2つ目は、都知事選のためにトップを退いてから8年間、ワタミを客観的に見たときに、何一つ新しいことが生まれてないわけですよ。現状の中における工夫はしているんです。1あるものを1.1とか1.2にするような。でも、そこには目指すものが見えない。僕は大きな未来の目標を立てて、そこを目指して新しい事業をつくってきた。やっぱり創業者じゃないと未来が見えないんだなということは強く感じました。

ここで言う「未来」が見えるか見えないかは、何の差なんですか。

渡邉氏:まあ、それはたぶん創業者の1つの変態、特異性だと思いますよね。一般のサラリーマン経営者の方ならば、現状を守ることを考えて経営するのは、やむを得ないことだと思います。ただアントレプレナー、創業者というのはもともと何もないところから、仕事を始めているわけですよね。「こんな夢を追い掛けよう」という思いから始まっているわけで。現状の1を1.1にしていこうとかいう、概念自体がないんですよ。だからそれにおいてはもう人種も違うと思います。

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