役員の“背中”を見て学ぶ

 社長のそばにいて、同じ目線になる。言うはやすしだが、実際に実践するのは難しい。そもそも、事業部から上がってくる情報も、自分の出身母体ならまだしも、多くは初めて聞くことばかり。知らないままでは、社長のサポートすらままならない。

 だから、役員補佐には、取締役が事業部とミーティングする前に、必要な情報をあらかじめ収集したり、不足していると思う情報を自ら事業部に掛け合って集めたりして、取締役が経営判断をしやすくなる環境を整える役割が課されている。

 必要なのは社内の人的ネットワークだ。碇谷氏にも各部署を巡りながら必要な情報を集めてきた。事業部にとっては、1年ごとに役員補佐が入れ代わり立ち代わり現れては、そのたびに同じようなことを聞かれ、本音では面倒だと思うかもしれない。それでも、碇谷氏は「私にとっては、かけがえのない1年。社長も『補佐の立場を有効活用すればいい』と言ってくれます」と、気にしないことにしている。役員補佐に就いてから1年近くたち、どの事業部にどんなキーマンがいるのかも把握できるようになったという。

 4年前に、当時、取締役常務だった内田義昭現副社長の「上席補佐」に付いていた宮岡俊高・ネットワーク技術本部長(54)は「技術屋は正論に陥りがちになる。しかし、理屈だけでは仕事は進まないことなどを教わった」と振り返る。

4年前に補佐を経験した宮岡俊高・ネットワーク技術本部長は当時、常務だった内田義昭現副社長の背中から学んだことがあるという(写真:的野弘路)
4年前に補佐を経験した宮岡俊高・ネットワーク技術本部長は当時、常務だった内田義昭現副社長の背中から学んだことがあるという(写真:的野弘路)

 内田氏は通信障害が起きれば、昼夜を問わず、現場に入り、部下に指示を与えていた。時には取引先とも交渉し、復旧に当たる。そんな姿を間近に見た宮岡氏は「内田さんはいざというときに、誰が頼りになるか、誰がどう動けるのかを把握していた」ことに気づいた。日ごろの経営判断も同様。身近にいれば、なぜその判断をしたのか、気持ちが理解できるようになってくる。役員補佐という仕事は、役員の背中や仕事ぶりなど、すべてから学ぶことができるのだ。

 そもそも、役員補佐はどういう経緯で選ばれるのだろうか。19年度は髙橋社長を含む6人の取締役に計13人の補佐がついている。KDDIは詳細を明かさないが、各取締役の「ご指名」だ。選ばれた社員は当初、誰もが「自分にできるのか」と戸惑いを感じるという。しかし、だからこそ、鍛える場としてはうってつけだ。

 白岩徹人事本部長は「急に何十人もいた部下がいなくなり、1人になる。そうした中で、役員に付いて、役員からの指示を自分の中で完結させて答えを出さなければいけない。いろんな社員に意見を聞かなければいかない、どんな課題があるかも自身で理解しなければ前に進めない。本当にタフな仕事なんです」と説明する。

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