KDDIには「役員補佐」という肩書がある。役員の御用聞き的なイメージも浮かぶが、実は彼らこそ、次代のKDDIをけん引するリーダー候補。経営感覚を身に付けるには、役員のそばに張り付くのが近道と、2011年度に導入された。役員補佐は日々、どんな仕事をし、何を学んでいるのだろうか。 

 「全社で一時的な在宅勤務の導入を検討しています。そちらのBCP(事業継続計画)は現状、どのようになっていますか」

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、安倍晋三首相が2週間の大規模イベントの中止などを要請した2月26日。KDDIの社長付の上席役員補佐である碇谷朋寿氏(44)は、各事業部によって異なるBCPの内容についてしきりに問い合わせていた。

 万が一、社員が新型コロナウイルスに感染したらどうするか。取引先が休業に追い込まれた場合に自社への影響はどの程度、あるのか。その場合、どのようにして事業を継続するか。経営陣はあらゆる場面を想定して、対応策を意思決定する必要がある。

 とはいえ、事業部門ごとにBCPの内容は異なる。例えば、コールセンターなど特定の拠点を抱えるカスタマーサービス(CS)部門は、在宅勤務に限界がある。まずは、各部門の状況を把握することが必要と碇谷氏は判断、聞き取りを急いだ。

 碇谷氏は社長の指示を受けて、動いたわけではない。

 前日には電通が本社勤務の約5000人を、資生堂が従業員約8000人を在宅勤務に切り替えることを明らかにしていた。KDDIでも2月26日夕方に急きょ、対応策を検討する会議が招集されていた。「社長の判断の助けになる情報を集めなければ」。碇谷氏は自ら動き出していた。KDDIはこの日の会議で、全国8000人の社員を対象に3月8日までの間、原則、在宅勤務することなどを決めた。この意思決定には、碇谷氏の情報収集が少なからず役立ったのは確かだろう。

 碇谷氏が今の職務に就いたのは、19年4月だ。携帯電話回線の販売を促進するコンシューマ営業推進部から1年の期限付きで異動してきた。以来、髙橋誠社長が出席する社内会議や打ち合わせのすべてに同席している。

KDDIの社長付上席補佐の碇谷朋寿氏。「補佐の仕事に就いて、明らかに視座が高くなった」という(写真:陶山勉)

 席に座っていればいいというわけではもちろんない。事業部側の報告や社長の話に耳を傾け、自分なりに要点をまとめたうえで、改善点や問題点を洗い出したリポートを、社長と補佐が共有するSNS(交流サイト)上に提出する。これを、「先生」役の社長がチェックして、経営者という立場から見解を交えながら「採点」する。

 「社長からは最初は『なぜ、事業部観点でしか物事が見えないのか』との指摘をたくさんもらいました。以前も、自分の中では全社的な視点で考えていたつもりだった。でも、補佐の仕事に就いて、明らかに視座が高くなった」と碇谷氏は語る。

 それまでも経営者視点や全社的な視点から会社の業務や自分の業務を考えるべきだと理解はしていた。しかし、間近で経営者と同じ目線に立ってみると、それはイメージしていたものとは明らかに異なっていた。「同じ時間を共にすることで、ぼんやりしていた全社的な視点に気づいた」という。

続きを読む 2/3 役員の“背中”を見て学ぶ

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