4月1日、りそなグループのトップが様変わりする。持ち株会社のりそなホールディングス(HD)、傘下のりそな銀行と埼玉りそな銀行でそれぞれ社長に就くのはいずれも1989年(平成元年)入行の同期。大手金融機関では初の平成入行トップの誕生だ。激変する経営環境に対応するために若手を抜てきしたと見ることもできるが、りそなの場合、決して思い付きで若手を引き上げたわけではない。2007年以来の周到なサクセッション(後継者育成)プランがある。

 りそなHD社長に就くのは同社取締役で、実店舗とネットの融合を進める司令塔役の南昌宏氏(54)だ。りそな銀行社長には岩永省一氏(54)が就く。同氏はりそなHD取締役で、グループ戦略を担当。同じくりそなHD取締役で財務を取り仕切る福岡聡氏(54)は埼玉りそな銀行社長となる。

1月31日、社長交代を発表し、記者会見する(右から)りそなホールディングス(HD)の東和浩現社長、りそなHD次期社長の南昌宏氏、りそな銀行次期社長の岩永省一氏(写真:共同通信)
1月31日、社長交代を発表し、記者会見する(右から)りそなホールディングス(HD)の東和浩現社長、りそなHD次期社長の南昌宏氏、りそな銀行次期社長の岩永省一氏(写真:共同通信)

 南氏と福岡氏は旧埼玉銀行出身で、岩永氏は旧大和銀行出身。大和銀行とあさひ銀行(旧埼玉銀行と旧協和銀行が合併)が2002年に統合して発足したりそなグループだけに、出身行ごとの派閥が残り、たすきかけ人事がまかり通りそうなもの。だが、そうはさせない仕組みがある。07年に導入した「CEO(最高経営責任者)サクセッション・プラン」。南氏ら3人は、このプランに基づいて早くから次世代リーダー候補として目され、訓練を受け、評価されてきた。

 同プランで育成の対象となるのは、約600人の部支店長級の人材の中から現役役員が自分の後継候補として推薦した人材などから選ぶ約20人と、執行役員以上の約60人だ。「変革志向」「組織を動かす力」「お客様の喜びを追求する」など、同社が定めた役員に求める7つの力を念頭にリーダーとしての素養を磨く。

 選ばれた次世代リーダー候補が実際に学ぶ場は「りそな・エグゼクティブ・コミュニケーション・スクール」と呼ばれる社内経営塾。社外の経営者を招いた講演会や担当役員を講師とする財務やリスク管理の勉強会などを通して、会社の経営基盤の仕組みや意思決定に必要な知識を幅広く授ける。

 執行役員クラスに昇格すると、人物評価が本格化する。役員昇格後2~3年目から外部の人事コンサルタントや社外取締役との対話を通じて、リーダーとしての資質や能力を確かめられるようになる。

 研修内容も現場で必要な知識の習得から、リーダーに必要な能力を見極める内容へと変化していく。例えば、ある事業会社の社長になったと想定して経験を積ませる「1日COO(最高執行責任者)」研修。突然、不祥事が起こったと仮定して、部下に指示したり、記者会見に出席したりする。臨時の経営会議では社外取締役を含めた取締役の視線を一斉に浴びながら、会議出席者からの質問に答える場面もある。ここで、出席者を納得させることができれば、リーダーとしての資質は十分。いざというときの判断や対応をチェックされながら、次世代リーダーとしてふさわしいかを判断されるようになる。

 こうした査定を通じて、約60人のうち2割ほどが専務や副社長といった上級役員に選抜される。彼らが文字通りの社長候補だ。社外取締役が同席する中で、社長と経営に対する考え方や事業方針などを巡り、対話を繰り返す。

 ここでの対話の内容を吟味しながら、最終的なトップ選びで大きな役割を果たすのが、6人の社外取締役だ。

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