たった14年で有人宇宙船の打ち上げに成功した米宇宙開発ベンチャーのスペースX。その「スゴさ」の理由を元米航空宇宙局(NASA)宇宙飛行士で、現同社顧問のギャレット・リースマン氏に聞いた。2020年12月22日付「『失敗を恐れない』 元宇宙飛行士が語るスペースXのスゴさ(上)」に続く後編だ。

 なぜ短期間で有人宇宙船を打ち上げられるほどの技術力を見つけられたのか。同社CEO(最高経営責任者)のイーロン・マスク氏が宣言する「早ければ2024年までの火星有人飛行」の計画には、どれだけの現実味があるのか──。

 リースマン氏から次々と飛び出すスペースXの常識破りの開発・製造スタイルは、あらゆる業種の参考になる「スピード化の知恵」にあふれていた。

ギャレット・リースマン氏
1998年、米航空宇宙局(NASA)の宇宙飛行士に。2008年と10年に国際宇宙ステーション(ISS)に滞在。ISSで日本の実験棟「きぼう」設置にも携わった。11~18年までスペースX勤務。NASAとの橋渡しや、有人宇宙船の打ち上げを準備するチームを率いるディレクター・オブ・スペース・オペレーションズを務めた。現在はスペースX顧問、南カリフォリニア大学教授。

NASAの宇宙飛行士として2010年、スペースシャトル「アトランティス」でISSに向かう直前、スペースXがリノベーションしていた発射台を見学したのが入社のきっかけとのことでした。実際にスペースXでマスク氏と働いてみて、正直なところ、どんな感じだったのですか。

ギャレット・リースマン氏(以下、リースマン氏):スペースXのスピーディーな開発スタイルに魅了され、私からマスク氏にアプローチして入社したのですが、最初の頃は彼と意見が合わないことがありました。

具体的には?

リースマン氏:彼はどんなモノを造るときも、「美的感覚」をとても重視して、そこに数多くの時間と労力をつぎ込んでいました。常に「格好いいかどうか」にこだわっていたのです。

 一方の私は、「見た目よりも機能」という考え方でした。人命を左右する宇宙で大切なのはやはり機能だ、と。でも、彼と一緒に仕事をするようになってしばらくすると、彼の真の目的が見えるようになってきました。

 マスク氏がやろうとしていることは、単に、顧客が望む機体を製造し、打ち上げることではありません。

 世界中の人たちに、スペースXが成し遂げようとしている「宇宙の未来」に胸をときめかせてもらうこと。誰もが気軽に宇宙に行けて、その行き先もどんどん広がり、ほかの惑星にも行けるようになる。そんな未来をドキドキしながら見守り、いずれは参加してもらうことなのです。

 世界中の人たちに興奮してもらうためには、やはり「見た目がクールであること」は欠かせません。

 そこに気がついてからは、私も考え方を変えました。「機能より見た目」とか「見た目より機能」とかではなく、「両方を実現すればいいのだ!」と考えるようになったのです。

 実のところ、見た目を追求すると、結果的に機能性も増すことがよくあります。設計をシンプルにすることで、見た目もスッキリとクールになり、かつムダがそぎ落とされるので機能面もアップすることが多いのです。

 思い返せば、私が入社を希望した理由も、マスク氏がシンプルな設計にこだわり、それが開発や製造のスピード化にもつながっていたからでした。

生産ライン短期立ち上げの裏に「自動車技術」

ぜひそこを詳しく。まず製造面でどんな工夫をしていたのですか。一般的な宇宙開発企業とどこが違っていたのでしょうか。

リースマン氏:他社に比べてとても効率的だと思います。彼らのロケットの生産スタイルは、どちらかというと自動車に似ています。

 スペースXで私が勤務していた時に生産ラインの立ち上げを担当していたバイスプレジデントは、ドイツのBMWで10年近く「ミニ」の組み立てに携わってきたアンドリュー・ランバート氏(現品質担当バイスプレジデント)でした。

 スペースXがスピーディーに生産ラインを立ち上げ、短期間でロケットを生産できる体制を整えられたのは、彼が自動車工場で使われている生産技術やリーン生産方式を導入したからだと思います。

例えば?

リースマン氏:生産技術で言えば、(異なる素材の接合部に回転体を当て、摩擦熱を用いて接合する)「摩擦攪拌(かくはん)接合」という技術、リーン生産方式で言えば、「部品の共通化」などです。

 共通化の例を挙げましょう。

 ロケットには、打ち上げ後に切り離される第1ステージと、その後、ISSまで宇宙船を運ぶ第2ステージがあるのですが、両者は果たす役割が異なるので似て非なるものです。第1ステージは、大気圏の中で打ち上げるのに向くように設計されている一方、第2ステージは宇宙で仕事をするのに向いた設計となっています。

11月15日に日本人宇宙飛行士の野口聡一氏を乗せて打ち上げられたスペースXの「クルードラゴン」(写真:ロイター/アフロ)

 通常は、全く異なる設計をするものなのですが、スペースXでは「どちらでも機能するような妥協点を見いだそう」となります。あらゆる部分で共通化を図っていくわけです。

 それを突き詰めていった結果、見事な結果が生み出されました。

続きを読む 2/3 コストを下げる「共通化」

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