イーロン・マスク氏が買収したツイッターが、全従業員の約半分を解雇する大規模なリストラに揺れている。筆者はサンフランシスコで、大量解雇よりも前に会社を追われたエンジニアに話を聞いた。一連の買収劇に関する風刺画をマスク氏に手渡したというその元社員が解雇された舞台裏とは。

 「1週間前までは働くのが楽しかったのに……。すべてが変わった」

 2022年11月9日夕方、筆者は米サンフランシスコ市内で米ツイッターから解雇されたばかりのエンジニア、エマニュエル・コーネットさん(通称「マニュ」)に会った。いかにも人が良さそうな笑顔が印象的なフランス出身の41歳だった。解雇を通達されたのは11月1日。イーロン・マスク氏による買収完了が10月27日だから、同氏がいかに早く社員削減に着手したかが分かる。取締役9人全員は27日夕までに解任された。

マニュはフランス出身の41歳。スイスにいた2007年から米グーグルでエンジニアとして働き始め、フランスを経て14年から米国勤務。中国や日本への長期出張が多かったため、大の日本好き。東京に住宅も持っている。ツイッターに入ったのは21年7月だ
マニュはフランス出身の41歳。スイスにいた2007年から米グーグルでエンジニアとして働き始め、フランスを経て14年から米国勤務。中国や日本への長期出張が多かったため、大の日本好き。東京に住宅も持っている。ツイッターに入ったのは21年7月だ

 社員の解雇通達が始まったのは11月3~4日。テスラからやってきたチームがどの部門の誰を対象とするかを検討し、ツイッターの人事部門などと連携して作業を進めたという。

 「なぜかは分からないが、テスラからやってきたチームはソフトウエア・エンジニアが多かった。大量解雇の後、解雇された人とされない人を分ける『法則』を同僚たちと議論したが、結局、よく分からない。(マスク氏は昼夜をいとわず働く社員を好むとされるが、)ワーカホリックで有名な社員も解雇されたし、勤務期間もさまざま」と話す。

 マニュはツイッターの前に勤めていたグーグルで14年間、ソフト・エンジニアとして活躍したベテランだ。ツイッターの書き込みを見ても、彼の生産性の高さと優秀さを評価する人は多い。ではなぜマニュ、具体的にはもう一人の男性社員との2人はそれよりも前に解雇されたのか。少し時間をさかのぼり、マニュの周囲で起きていたことを見ていこう。

マスク氏に手渡した風刺画

 マニュは21年7月にツイッターに入る前から少し名の知られた存在だった。グーグルでは、同社の経営者や経営状況を風刺するイラストを描いてSNSなどに投稿していたからだ。辛辣な内容が問題視されたこともあったが、解雇までには至らず、ツイッターでも同様の扱いを受けていた。

洗面台(シンク)を手にツイッター本社を訪れたマスク氏。「Let that sink in(よく考えて深く理解しよう)」にかけたジョーク(写真:Twitter account of Elon Musk/@elonmusk/AFP/アフロ)
洗面台(シンク)を手にツイッター本社を訪れたマスク氏。「Let that sink in(よく考えて深く理解しよう)」にかけたジョーク(写真:Twitter account of Elon Musk/@elonmusk/AFP/アフロ)
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 10月26日、「洗面台」を抱えてツイッター本社にやってきたマスク氏は、社内を練り歩いて誰がどんな仕事に従事しているかを聞いてまわった。マニュの仕事場にもやってきた時に渡したのが、下の風刺画だ。ツイッターのロゴの置物を踏み潰しているマスク氏に「壊したなら買ってよ!」と訴えている。

ツイッターのロゴの置物を壊したマスク氏に「壊したなら買ってよ!」と訴える男性。買収しようとしながら株価下落を招いたともされるマスク氏への皮肉が込められている(提供=Manu Cornet)
ツイッターのロゴの置物を壊したマスク氏に「壊したなら買ってよ!」と訴える男性。買収しようとしながら株価下落を招いたともされるマスク氏への皮肉が込められている(提供=Manu Cornet)

 マスク氏の反応は「結局、買ったでしょ」。「最初の印象は『クールガイ』。洗面台をジョークで持ってくる経営者なんてそうはいない」とマニュ。だが、好印象はすぐに消えた。

 「1日に400万ドル以上(の赤字)」とマスク氏がツイッター上で明かしたように、同社は火の車だ。マスク氏は複数のプロジェクトを立ち上げ、大量の仕事がメールで降ってくるようになった。

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