「明日、どうなるんだろう。ちょっとドキドキ」

 「ドキドキですね!」

 米大統領選の投開票日前日の11月2日、ニューヨーク支局の仕事を手伝ってもらっているアシスタントさんとスマートフォン用対話アプリ「LINE(ライン)」でそんな会話をした。

 3月にニューヨーク市で新型コロナウイルスが大流行してから、アシスタントさんとは遠隔でやりとりして仕事をするのが日課となっていた。大統領選に向けて数カ月にわたって取材を重ねてきたが、いよいよ迎える当日。嵐が来る前日のような、不安と高揚感が入り交じる不思議な感覚だった。

 当日の3日はいつもより早く起床。昼食に選んだのは、レトルトのめんたいこスパゲティ。抗議活動が市内で起きることが予想されたため、体力を付けておこうと考えたのだ。

 まずは、あるグループの抗議集会が午後2時から開かれるというタイムズスクエアへ向かった。タイムズスクエアは抗議集会の会場となることが多い。ニューヨーク市警の警官が手際よくフェンスを設置し、一部の道路を封鎖していた。

南北に走るブロードウェイと東西に走る42丁目の角で、午後2時頃撮影
南北に走るブロードウェイと東西に走る42丁目の角で、午後2時頃撮影

 広場に行くと、確かに小さな人だかりができていた。だが……正直、想像していたほどの規模ではなかった。数十人の集会参加者の周囲に、同数くらいのメディア関係者と見物人が群がっていた。

最初に目に入った人だかり。「え? これだけ?」というのが正直な感想だった
最初に目に入った人だかり。「え? これだけ?」というのが正直な感想だった
もう少し近づくと、抗議集会の全体像が見えてきた。横断幕には「Count Every Vote(票を残さずカウントせよ)」との文字が書かれていた
もう少し近づくと、抗議集会の全体像が見えてきた。横断幕には「Count Every Vote(票を残さずカウントせよ)」との文字が書かれていた

 周囲には複数のメディア関係者が困惑した表情で立っていた。参加人数が多そうに見えるアングルを必死に探るカメラマンに、面白い話を引き出そうと手当たり次第、周囲の人たちに話しかけるリポーター……。筆者も「あなたは抗議者ですか?」と話しかけられたが、申し訳ない気持ちで「違います」と答えた。

米国の民主主義を危惧する2人の72歳

 せっかく来たのだから話だけは聞いて帰ろうと思い、横断幕を持つ人のうちの2人に話しかけた。ロバート・クルーンクイストさん(72歳)とジャッキー・ルーディンさん(同)。2人は友達といい、「Rise and Resist」という政治活動団体に属していると教えてくれた。

 聞けば、団体は2016年にドナルド・トランプ氏が大統領に当選したのをきっかけに発足したという。抗議集会の目的は、市民への投票の呼び掛けと、政府に対してすべての投票をカウントするよう訴えることだった。

クルーンクイストさんは1982年からニューヨークに住む元公立校教師。「4年前に組織が立ち上がったのは、米国の民主主義が知的にも政治的にもモラル的にも大統領に適していない人物の手に委ねられてしまったから」と説明した
ルーディンさんは「ファシズムに突き進むのか、民主主義に立ち返ろうとするかの瀬戸際にある。今も民主主義の中にあるとは言えないが、選挙に参加するということ自体は民主主義。これまで国として大事にしてきた互いを思いやるなどの主義主張を米国が失いかけている」と話した

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