米国西部のロサンゼルス港とロングビーチ港の沖合に浮かぶ100隻前後のコンテナ船は今や、サプライチェーン(供給網)の世界的混乱を象徴する風景となった。
中国をはじめアジアからの輸入品の供給が滞り、店頭での品不足やインフレの懸念が米国内で急速に高まっている。11月の感謝祭から12月のクリスマスにかけてのホリデーシーズンは、企業が1年で最も商品やサービスを売る稼ぎ時。販売台数の多くを米国市場に頼る日系自動車メーカーにとっても決してひとごとではない。
「港湾で荷降ろしをする人が足りない……」。新型コロナウイルス流行に端を発した人手不足をコンテナ船滞留の理由に挙げる声をよく聞くが、供給網のあらゆる現場の声を拾っていくと、原因はそれだけではないことが分かってきた。実際はもっと根が深く、そう簡単に解決しそうもない。そのため「あと1年は続くだろう」とみる人もここのところ増えてきた。
米国の現場の視点から、史上最悪の供給網混乱の現実と解決の糸口を探る。
「こりゃダメだ! バイデンはちっとも現場のことが分かってない」
2021年10月13日の昼下がり、米中西部にある日系自動車部品工場の事務所で、日本人の社長と米国人の副社長がテレビを前に憤りの声を上げていた。
ジョー・バイデン米大統領が供給網混乱の問題を解決するとして開いた記者会見。目玉は、識者が「最大のネック工程」としていたロサンゼルス港の荷降ろし作業を「トゥエンティーフォーセブン(24時間・無休)」で稼働させることと、ウォルマートやターゲットなどの小売り大手や、フェデックスやUPSなどの物流大手と組んで人手を増やしてもらい、在庫を早く引き取ってもらうことの2点だった。2人にとって、後者はまだしも前者が問題の解決につながるとは思えなかった。

この自動車部品工場では、中国の関係会社や日本の本社から調達している部品の輸入に頭を悩ませていた。
通常は、中国や日本から部品をコンテナ船に載せてロングビーチ港など西海岸の港に運び、そこから鉄道でシカゴへ。さらにトラックで近隣都市の物流拠点に運んでから「ミルクラン」と呼ばれる複数の工場を回る定期トラック便で工場まで届けてもらっていた。
事態が急速に悪化したのは9月ごろからだという。21年春には米国の経済が急速に回復し、さらにホリデーシーズンを前にアジアからの輸入が急増した。その結果、米国の供給網が目詰まりを起こした。
需要の拡大で運送料は上昇。この部品メーカーの場合、港から工場までの運賃だけでこれまでの1コンテナ当たり2000ドル程度から6倍以上の1万2500ドルに跳ね上がったという。
コロナ禍の上をいく「最悪の事態」
問題は運送料だけではない。通常なら1週間で届く部品が発注から2カ月たっても届かない。この社長は「完成車工場も稼働を停止したり生産を減らしたりしているのでまだ納期遅れには至っていないが、毎日がヒヤヒヤの連続」と明かす。
ただでさえ半導体不足で売り上げ減に見舞われている中、運送費の高騰と部品調達までの期間の長さが部品メーカーを苦しめる。顧客である完成車メーカーに価格を転嫁するわけにもいかず、9月と10月は売り上げが計画比40~45%減で、赤字になりそうだ。20年に続き、通年の赤字は避けられそうもない。
同じような状況にある別の日系部品メーカーの社長も肩を落としてこう話す。
「(コロナ禍で完成車工場の稼働が一時停止した)20年は最悪の年だったが、コロナは不測の事態。後から考えたらきっといい経験だったと思えるはずだと高をくくっていたが、まさか21年がもっとひどい年になるとは……」
この悪夢から解放されるかもしれないとの期待を胸に見たバイデン氏の会見で、両氏は打ちのめされたと口をそろえる。
「このままいけば供給網の正常化までにあと1年はかかりそうだ」
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